不機嫌の理由(適当)


人殺しの罪は重い。
大抵の国でそれは硬く禁じられている。
同胞殺しを許せば、社会を維持することが困難だと言う証拠だ。
…そして、忍が暗躍する。
許されないはずの罪を代行させるために。
「変な話でしょ?」
のんびりした声で語る生き物は血にまみれている。
自分と同じくベストだけじゃなく、アンダーまで生臭く温い液体は入り込み、ぬるついて不快な臭気を放つ。
自分がろくでもない生き物だということを思い知らせるかのように。
「そう、ですね」
本当は、そんな思索にふける余裕などない。
敵を切り刻むだけの任務だが、命を奪われると言うのに無抵抗な馬鹿はそういない。
攻撃を受け流し、はじき、逸らす。その合間に相手の命を確実に絶たなくてはならないのだ。
幾度もそれを繰り返したおかげで、疲弊した体はすでに鉛のように重い。
今更人殺しがどうのと懊悩するくらいなら、すっぱり止めるか己の命を絶っているだろう。
考えた所で変えられない。
己の身を武器とすることを選んだのは自分だ。
忍の里に生まれてそうせざるをえなかったともいえるが、それを言い訳にするほどぬるい性格はしていない。
自分が選んだ道だ。どんなに汚れていようが困難があろうが、それを乗り越えてこそ自分の人生だろう?
今更別の生を生きろと言われてもできやしない。
…任務で潜めと言われれば、例えその任期が無期限であっても実行するだろうけどな。
「おもしろいよねぇ?自分のせいじゃないって思いたいんだって。でも死んだかどうかは確かめたいとか…ほんっと笑える」
弄ぶその首は、確かにターゲットのもの。
これで任務はほぼ終了だ。
この独白ともつかぬ呟きが、苛立ちからなのかどうなのか判別がつかなかったが、隊長はこの男だ。
いくらイかれていようが、なんだろうが、指揮を執ってもらわねばならない。
「後、どれくらいですかね?」
とりあえず、今切り捨てたので気配は途切れている。
終わったんだろうか。これで。
「んー?最後かな。これで。帰れるね」
「…そうですね」
それならとっとと退くまでだ。
ふと見ればもう先ほどの首も仕舞い込まれたあとのようだ。
…ふざけた会話をしたのも、一仕事終わったからだったらしい。
「あーあ…もう最悪。くさいし」
まるでどこかの女子学生のようだが、流石にここまで汚れるとそう思うのも分かる。
着替える余裕はありそうだが、その前に体を流さなくては。
「川がこの近くにあったはずですから、そこで流しますか。適当に」
服を洗う体力と、乾かすチャクラくらいなら何とかなるだろう。
汚れきったままうろつくよりはずっといい。…追っ手がかかったことを考えても。
程なくして水音が聞こえてきて、コレなら何とかなるだろうと思った時、ポツリと上忍が零した。
「…デート、誘おうと思ってたんです」
唐突にしょぼんとした顔をするから何かと思った。
そりゃイヤだろうけどな。デートの予定がこんな任務ってのは。
妙に感傷的なことをいうのもそのせいだったのか。
「ま、まあその、急いで帰りましょう?ね!」
…本音を言えばもてる男に苛立たないわけじゃなかったが、こんな顔されたら攻めるに攻められない。
だができることと言えば慰めにもならないかもと思いつつ、足を動かすのがせいぜいだ。
その足をまさか止められるとは思わなかったが。
「ヤです。こんなクソみたいな任務なのに、あなたがいるからデートみたいなんて思っちゃう馬鹿なんですよ。俺は」
「へ?」
「戦い方かっこいいなーとか、あとなにげにかばってくれますよね。まあ任務だって分かっちゃいるんですが」
「は?」
「…で、さっき水浴びするあなたを妄想したら、我慢できなくなったので」
「そ、そうですか!?え!?えぇ!?」
上忍は…どうやらやっぱり大丈夫じゃなかったらしい。
…というか、どうしちゃったんだこの人。コレじゃまるで俺のこと好きみたいだろうが。
「あー…ま、そんなわけで。好きです。そのことを踏まえたうえで水浴びしてください」
血まみれだ。泥も。そしてこれは…襲いたいと言いたいんだろう。
「体は流します。あんた上忍なんだから自重しなさい」
そう言い渡すとあからさまに傷ついた顔をされた。
勝手なこといってるのはこの男方だろうに!
「イルカせんせ?」
手を掴んだだけで不安そうな顔をされた。…どうやら本気らしい。ありがたいかありがたくないかはおいといて。
「帰ってからなら…善処します」
その一言で顔を輝かせる男もどうかと思うが、その笑顔に釣られて照れる自分も相当どうかしてる。
「…帰ったら、かぁ…!」
「善処ですからね!あくまで!」
舞い上がった声で浮かれる男には、一応釘を刺しておいたが無駄だろう。
…自分の方も、絆されている自覚があるから。
帰ってから、もう一度風呂はいって…全部そこからだ。
「デート!まずはデートしましょ?」
その中身がなんなのか気になることを喚く男には、なけなしのチャクラで水をぶっかけてやった。
ちょっとケダモノ染みた視線が気になるが…まあなんとかなるだろう。えさもあるし。…その餌が自分だってのも凄い話だが。
「まあ、うん。そんなのもありだな」
一人ごちた背に張り付く男をいなしつつ、この任務が早く終わればいいのにと思った。


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適当。
愛を囁きまくる上忍のターンもうすぐ。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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