おいかけっこ22(適当)



「イルカ…よかった…!」
「無事だな?怪我は?あのクソガキに変な事されてないな?痛かったらすぐに言うんだぞ?」
家に帰るときもすごい速さだったけど、玄関に入るなり母ちゃんと父ちゃんにもみくちゃにされて、目が回りそうになった。
泣いちゃったのもかっこ悪いなぁと思ったけど、母ちゃんたちもなんでかしらないけど泣いてて…これって、俺のせいだよな。
「ごめんなさい。母ちゃん。父ちゃん。あのさ、カカシんちの本見せてもらってて、術とか使いたいなって思って…」
俺のせいで母ちゃん泣かせて、カカシも恐い目にあわせた。
父ちゃんも多分びっくりしたはずだ。
謝っても謝っても胸につっかかる感じが消えなくて、また泣いてしまいそうだ。
…カカシにも、もっとちゃんとしっかり謝らなきゃ。明日にでもすぐに。
「勝手に術使っちゃ駄目。…それに、その術…アレにはもう近づかないようにしなさい」
「なんで!?」
母ちゃんがこんなこというなんて。だってカカシはいいやつなのに。
…まあカカシの父ちゃんはちょっと…うん。俺にもわかるくらい変なところもあるけどさ。
なんで、なんでそんなこというんだよ。母ちゃん…。
「そうだ。アレには二度と近づくな。その妙な術は必ず父ちゃんと母ちゃんが解いてやるからな?」
にかっと笑ってわっしわっし頭をなでられるのは、いつもなら嬉しいことのはずだ。
でも全然嬉しくない。カカシに会うなって…なんでだよ!アイツはあんなにいいやつで、寂しがり屋で、一人になんてしておけないのに!
「ヤダ!ぜーったいヤダ!カカシは俺のためにがんばってくれたんだぞ?お土産だってカカシががんばってくれたからあんなに一杯取れたのに!」
目の奥が熱い。鼻がつんってする。さっきもそうだったけど、もうがまんとかそういうことも考えられないくらい腹が立った。それに悲しかった。
カカシを一人にするなんて、絶対嫌だ。
「イルカ。アレはね。イルカが思っているような生き物じゃないの。嘘をついたり人を騙す生き物は、外見だけは綺麗だけど、触れるだけで毒を撒き散らす。だからアレと関わるのは」
「カカシはそんなんじゃない!」
カカシは毒なんかじゃない。どっちかっていうと…父ちゃんが育ててる温室の花みたいに、よわっちくてでも綺麗で、だから。
「あのクソガキは、お前に…その、手を出そうとしてるんだぞ?」
「手?手ってなんだよ!さっきだって母ちゃんに見とれてて止めてくれないし!父ちゃんの馬鹿!」
「ぐ!だがな?あれは…」
何が言いたいか全然わかんない。折角のお土産なのに廊下にぼとって落とされたまんまだし、俺が集めた薬草も魚もどうでもいいみたいに扱われてる。それからカカシはいいやつなのに悪者扱いだ。こんな酷いことするなんて、母ちゃんはなんか誤解してるし、父ちゃんはわけわかんないこというし、もうなんなんだよ!
「俺、カカシんちの子になる。そしたら父ちゃんも母ちゃんも納得するだろ?カカシがなんにもしないって」
「駄目に決まってるでしょう!」
「なんにもしないわけあるか!アレの息子なんだぞ!」
…なんか、カカシの父ちゃんが昔なにしちゃったのか気になるけど、駄目駄目言われても俺の決意は揺らがない。
だってさ、カカシの側にいてやらなきゃ、誰がカカシを守ってくれるんだよ。カカシの父ちゃんはあんななのにさ。
俺には母ちゃんと父ちゃんがいるけど、カカシにはちょっとアレな父ちゃんと、ちょっとどころじゃなく変な先生しかいないんだぞ?だったら俺がいなきゃだめじゃんか。
「今までお世話になりました。俺、俺…母ちゃんの作ってくれるハンバーグもオムライスもあとえっとやきそばもてんぷらもそうめんとかも、それにそれにケーキとかも大好きだよ!」
後なでてくれるとことか褒めてくれるとことかも好きだ。
でもしょうがない。分かってくれるまでちょっとだけさよならだ。ずっとわかってくれなかったらって思うとものすごく苦しいけど、しょうがないよな。男なら、耐えなきゃいけないことがある。
「イルカ!」
「行かせるか!」
「知るもんか!」
玄関の扉を開けて、飛び出そうとして…何か生暖かいモノに捕まった。
「あー!イッルカくーん!こんばんは!明日から早速修行しようねー!」
「貴様!」
「ミナト!なぜここに!」
さっきの変な黄色い頭の…カカシの先生だ。
「え?修行?」
「そうそ!ほら、術の練習しないと!その術どうにかするにしても、強い忍になるにしても、お役立ちだよ!」
「うん!する!」
カカシと一緒だ。それに術が変になっちゃったのもなんとかできたら、多分母ちゃんたちの誤解も解けるに違いない。
ならさ、がんばればいいってことだよな!俺が!
「何を言い出すかと思えば…!」
「許さんぞ!うちの息子に!」
「えー?だって事故だったんですよね?だったら俺がちゃんと教えますから。色々術知ってますし、ね?」
ちらって母ちゃんを見て、母ちゃんがすごく恐い顔でカカシの先生を睨んだ。でも起こらないし否定もしない。ってことは…この人やっぱり強いんだなー?
「修行がんばるから!カカシだけじゃないし、この人大人だし、駄目?」
ダメ押しでお願いした。誕生日に変身暗部マンセットおねだりしたときより必死だったと思う。
「修行だけだ。あのガキでもお前でも、私の息子に手を出せば…消す」
「あはは!相変わらずだ!ね!うみのさん!いいですよね?」
「…何かあればお前も無事でいられると思うなよ…!?」
「もちろんですって。ねー?」
「う、うん!俺、怪我とかしないようにするから!修行でちょっとはするかもだけどさ!」
変な人だけど今は味方だ。味方なら…今のうちにがんばって説得しなきゃ。
首がもげそうになるほど頷いたせいでちょっと首が痛いけど、俺はがんばった。目でも手でも口でも、全部使ってお願いオーラを全開にした。
「…イルカ…油断は絶対にしちゃだめ」
「なにかあったらすぐに呼ぶんだぞ?これは口寄せと式とトラップと…」
「うん!ありがとう!母ちゃん!父ちゃん!」
嬉しくなって抱きついたら、母ちゃんも父ちゃんもぎゅうぎゅうにしてくれた。
さっきもぎゅうぎゅうだったけど、今のほうがずっと嬉しい。
「じゃ、そういうことで。じゃあね!イルカ君!」
「うん!ありがとう!」
手を振って見送って、暗い顔してる二人に向き合って、ちゃんと座った。正座ってやつだ。ちょっと足が痛いけど、ちゃんとお願いするときはこうしなきゃだよな。
「俺、がんばるから!」
そういって顔を上げると二人してなんともいえない顔をして、それから。
それから顔を見合わせて、深い深いため息をついてくれたのだった。


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適当。
ムスコン二人。
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