縁は異なもの(適当)


「好きなんです」
「え、えーっと。あの、そういわれましても…!?」
見合いだと言われた。それは勘違いじゃないはずだ。
だが言われたとおり着慣れないスーツを引っ張り出し、これまた慣れないアイロンまでかけて着込んで、何とかそれらしい格好で指定されていた高級そうな料亭に来たというのに、俺の前に座っているのは知り合いの上忍で、もっと言うなら男で同性だ。
あからさまに任務帰りだと分かる泥と、それ以外の鉄錆臭い赤を纏わせて、どこか必死そうな顔で俺を見つめている。
…何がどうなってこうなったのか、さっぱり分からない。
「あ、あの?俺は、その、今日三代目の指示で…」
そう、指示というか…半ば命令だった。
色恋に疎い俺を心配してか、これまでも散々そういう類の話は持ち込まれてきていたけど、仕事を理由に断っていたら…わざわざ公務扱いにしてまで俺に見合いを受けろといったのだ。
見合いが悪いことだとは思わないが、急に持ち込まれた話に積極的になれなかったのは事実だ。
だからと言って、相手が男だなんて聞いてない!
怒ればいいのか嘆けばいいのか…態度を決めかねていた俺に気づいたのか、上忍がそっと俺の手を取って言った。
「あなたが、好きです。見合いは悪いけどあきらめて?俺を見て、知って、それからどうしても駄目なら…あきらめられるように努力だけはしてみるから」
それは見合いとどう違うんだろう。
あきらめてってことは…三代目がトチ狂って俺を男との見合いに引っ張り出したわけじゃないらしい。
そんな明後日なことまで考えてしまった。
大体普段受け付けなんかで会うときは、そんな風に思ってくれてるなんておくびにも出さなかったのに。
「あ、の、正直まだ結婚を考えてるわけじゃなくて、むしろ三代目が強制的に…」
「ん。そうだろうとは思ったのよね?だって部屋に媚香焚くなんて、まともじゃないもん」
三代目…なんでそんなことまでしちゃってるんですか…!?
「結果的に助けていただいたみたいで…ありがとうございます。で、あー…えっと」
ありがたいとは思う。だがそこから先のことなど想像しても来なかっただけに、どうしたらいいのか戸惑いを隠せなかった。
何せいつもならせいぜい世間話をする程度の関係だ。
…いきなり好きって言われても…え、あれ?好き?
「いいいいい今!今俺のこと好きって言いませんでした!?」
「いいましたよ?」
ああ、なんでそれがなにかって顔してるんだろう。
俺はこんなにも慌てふためいてるって言うのに!
「あの、でも俺…!中忍で男なんですけど!?」
とっさに出てきたのはそれだけだったけど、上忍はニコリと微笑んで俺の手を握りしめた。
「それも全部ひっくるめてほれたんです。…強引さは今日の見合いよりはマシですが多分どっこどっこいかもしれません。でも…俺が生きている間は誰よりも幸せにしますから」
俺のこと、好きになって?
…そんな風に他の何もかもを振り払って、愛を囁かれたら…断ることなんてできやしない。
鼓動がうるさい。胸が騒いでいるのは…きっと。
「と、りあえずは…お付き合いからで」
「ん。ありがと!」
そうして、えらく嬉しそうに笑った上忍と一緒に飯を食って、飛んできた三代目に怒られたりもしたけれど。
…俺は人生初の結婚前提のお付き合いってやつをすることになったのだった。


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適当。
流され中忍。
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