聖夜の攻防戦、その結果(あくまで子イルカ)

「はぁ…今年も何とかなったが…今度こそこんな任務は拒否してやる…!」
去年よりさらに大量のトラップと、遊び心満載というか…組織犯罪集団への対策というよりも、ふざけているとしか思えない仕掛けの数々に泣かされたが、途中かなり本気になったお陰で何とか任務を果たすことが出来た。
結果、イルカは地団太を踏みながら悔しがり、尚且つプレゼント(今年もジジイは料理の本と忍具なんかと一緒に、なぜか燃える男のダンディズムだの何だのと書かれた怪しい本までセットにしていたので抜き取るのに苦労した。)魂を抜かれているわけだが…。…クリスマスを心待ちにしている世の子どもたちを少しでも見習って欲しい…。
腕は上がっていた。ソレを確認できたことがクリスマスプレゼントだと己に言い聞かせてみたが、やはり納得は出来ない。
純真な瞳でサンタサンを狩ると宣言し続けているのは、あの爺のせいに他ならない。そろそろ現実をきっちり突きつけるか、せめて一般的なサンタの方を理解して欲しいんだが…。
その困難さを思って溜息をついた俺に、いつの間にかプレゼントの本から顔を上げたイルカが、深刻そうな声で話しかけてきた。
「カカシ…俺、サンタサンの正体が分かったと思うんだ…!」
…思わず冷や汗が背中を伝った。
ばれるのはいい。サンタの正体を知るのは、一般的には夜中にプレゼントを置きに来る親を見つけることらしいから。
ソレよりも恐ろしいのは、イルカが俺を組織犯罪集団サンタサンの一員だと勘違いすることだ。
今までも…ソレはもう散々、俺は俳優じゃないと耳にたこができて海に旅立つほど言い続けているというのに、どうあっても信じようとしないのだ。
これでさらにうっかり組織犯罪集団の一員なんて肩書きが増えたら、イルカがどんな暴走をするかわかったもんじゃない。
だが、幸いにして、人生の大半を忍として過ごしてきた俺の体は、意識しない内にさらっとポーカーフェイスを貫いてくれた。
「で。だれなんだそれは?」
俺をとんでもなく腕のいい俳優だと思いこんでいるイルカ相手なら、もしかしなくても演技だと勘違いされる恐れがあったが、面倒くさそうな口調は思ったより自然で、ホッとした。さりげなくサンタサン疑惑をかけられたのが誰なのか、探りを入れるのも忘れなかった。
良くやった!俺!
だが油断は出来ない。張り詰めた空気はS級任務よりも俺を緊張させたが、イルカの方はむしろ淡々としている。
やはり、何か感づかれているんだろうか?
「サンタサンは…」
答えは、もうすぐ聞けるだろうが、その答えが恐ろしかった。
犯罪者としてとんでもない子どもに追い回される暗部になるなんて、想像するだけで眩暈がする。
「早く、教えろ!」
思わずせっついてみたら、イルカはにやりと笑ってこう言った。
「それはだな…!サンタサンは恐らく…!凄腕の上忍だ!」
バクバクと心臓が騒ぎ始めた。…だが、イルカは俺のことを忍というより、犬の友人が多い俳優として認識しているはずだから、まだ俺だと確信しているのかどうかわからない。
「で?」
ばれているんじゃないだろうかという焦りを完璧に隠し、次の言葉を促せる己の鉄壁の演技に自分でも驚きながら、イルカを観察した。
「そして…!ヤツはきっと白髪の爺さんにまちがいない!これが動かぬ証拠だ!」
拍子抜けした。…イルカの手のひらに乗せられて、仰々しく差し出されたソレは、確かに白く長いものだったが…これは恐らく三代目のヒゲなんじゃないだろうか?
多分、プレゼントを用意する時にうっかりヒゲも一緒にくっついてたとかそういう理由だろう。
…なにせ、ダンディズムなんちゃらの表紙は手書きだったし、中身もどうも三代目の筆跡に近すぎるように思う。ヒゲの一本や二本混ざりこんでても不思議はない。
ホッとしたら力が抜けた。だが、まあこれはいい機会だから、しっかりサンタは俺じゃないと刷り込んでおかなくては。
「ああ確かに、それ、多分ヒゲだよな。それ、どこで?」
「ダンディズム読本の間に挟まってたんだ!すごいだろ!」
キラキラと瞳を輝かせて喜びのあまり飛び跳ねているイルカは、ソレはもう楽しそうだが、不審者のひげを発見してここまで喜ぶのは珍しい。
…イルカの中でのサンタクロースのイメージがどんなものなのか、いっそ聞き出したいくらいだ。
術も忍具の扱いも、成長速度が目覚しいことは喜ばしい。つまりイルカは馬鹿じゃないはずだというのに、どうしてこんな明後日なものを信じ込んじゃったんだか謎だ。…諸悪の根源はどうもアイツの親父さんのような気がしてならないが…。
まあとにかく、これで大分楽になるだろう。少なくとも俺が疑われることはなくなったようだから。
「…何とかなるよな…」
呟いた俺の背後から、イルカが叫んだ。
「やっぱりカカシはなに着てもにあうよなぁ!すっごく良く似合ってるぜ!」
「わー!?黙れ!」
そう、俺に与えられたクリスマスプレゼントは後もう1個。赤い赤い…ドレスは断固拒否したら非常にデコラティブなスーツらしき代物だ。
…これだってできれば拒否したかったのに、あのジジイのせいで…!年に一度じゃ我慢せい!などとえらそうに命令…ってまあたしかに里長だからえらいんだが、何だってこんなわけの分からんことを命令するのか理解に苦しむ。…ああやって意味不明な甘やかしかたするからイルカが道を誤るんだ!
そう叫んでみたものの、現状は変わらない。情けなさに涙が滲んだが…。
「へへ!ヤツにはまた負けちゃったけど、今年もカカシと一緒にお祝いできたからな!…すっげぇ大ヒントも得たことだし、来年こそは負けないぞ!」
決意も露に俺にくっついて嬉しそうにしてるのを見ると、邪険にもできない。
コイツの更生には愛情は必要不可欠…だよな?
「修行。がんばろうな?」
イルカの頭をなでてやると、まるで猫のように目を細めて嬉しそうにしている。
…俺に出来るだけのことを努力しなくては。
改めてそう決意しながら、俺は、とりあえず今日もまた縛られて気絶したままのクマ(衣装はなぜか露出の激しいどっかの原住民系)をどうにかしないとなと思ったのだった。


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子イルカアフタークリスマス!
本編間に合わないー…ド粗品でごめんなさい…!
一応!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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