愛されたい人 愛したい人(適当)



いつもなら絶対言わないはずの言葉が思わず口をついたのは、多分少しは酔っていたせいなのかもしれない。
「愛されたいの」
言った自覚もおぼろげで、転がる山ほどの酒瓶を更に増やしていた仲間が噴出さなければ、自分の言葉にすら気づけなかっただろう。
この所ひたひたと押し寄せる寂しさに気づいてしまって、その切っ掛けのおかげでどうしても胸が苦しくて、様子のおかしい俺を気遣ってこうして酒を飲んでくれる仲間もいるってのに少しもそれが埋まらない。
こんな女々しい言葉を口にしたのは初めてだと思う。寂しいなんて思う余裕すらないほど任務に忙殺され、気づいたときには誰の手とも繋がっていない自分が恐ろしく虚ろなまま転がっていた。
あったかいあのひとのせいだ。少し触れただけなのに、あの熱がうつってしまった。
もっと、ずっと先まで気づかないままでいたかったのに。そう長くないだろう一生を、寂しさで埋め尽くされたまま過ごすのは流石につらすぎる気がした。
「おめぇよお。それは女がいう台詞だろ?」
「まあいいじゃないの?で、誰によ」
「誰かに」
だれでもいい。こんな事を言ったらあの人は呆れるだろうけど。
側にいて、あの熱をくれる誰かが欲しい。俺のも受け取ってもらえればもっといいんだけど、冷え切ってしまった俺じゃ、誰かの役には立てないだろう。
本当は、分かっている。一人でいるべきイキモノなんだってことぐらいは。
ただの愚痴にしては湿っぽく、だが切実で、だからって夢物語みたいなことをいえるような立場じゃないのも知ってた。
「なんだあ?おめぇそんなとこまで女みてぇなことい…ぎゃあ!」
「うーるさいわね。クマは黙ってなさいよ!…ふぅん?じゃ、そういう子探してみようか?」
温かいまなざしは遠い記憶の中の母親のようで、そういえばコイツも女だったと思い出した。
懐の深さがひげクマとは違うよね。
「いーの。…写輪眼じゃなくて、ただの俺をちゃんと見てくれて俺だけを愛してくれる人がいいから」
「どこの乙女だよ…」
「ま、がんばんなさい。心配してるのよ?妹みたいに」
「ありがと」
子ども扱いされることにももう慣れた。こんな恐ろしくてイイ女の番の相手はボンクラ気味なひげクマってのは心配だけど、幸せになるだろう。誰かの手なんか借りずに自分で。
俺なんかと違ってきっと。
「ああもう!いいじゃないか!」
「だーってなぁ?お前何度目だー?それ」
「しょ、しょうがねぇだろ!…俺は、好きになった人は愛し倒したいんだよ」
肩を組んで歩いてくる中忍二人。その片割れの方に見覚えがあった。
あの人だ。
「好きだからってなんでもかんでもしてやりたいとか、重いんだろきっと」
「…そう、なのかもな…。つまらないって…まあしょうがねぇよな」
「なんだよそれ…!お前散々起きられないから起こしてやったり、飯だって全部お前が…!」
「あー…うん。得意な方がやればいいからそれはいいんだ。でもなぁ…」
潤んだ瞳。アレが俺のモノだったらいいのに。
雫が零れ落ちる前に手を伸ばしていた。
「こんばんは」
「え!ああカカシ先生。こんばんは。どうしたんですか。そんな泣きそうな顔しちゃって」
頬が温かい。この人の手はいつだって俺を温めてくれる。いいなぁ。欲しい。愛され倒した挙句に捨てて、どうせまた温かさが欲しくなったらこの人にたかりに行くんだ。
女なら、それができる。お人よしで、裏切られても憎みきれないこの人のことを利用しつくすような狡猾な下種女なら。
「なんでもないです。ちょっと飲みすぎかも?」
無意識なんだろう。撫でてくれる手が優しい。酔っ払ってるからいつもみたいな遠慮がなくて、それが嬉しかった。
「ふぅん?なるほどねぇ?」
「あぁ?おいイルカ!飲みすぎんのはまあアレだが、またどっかその辺で寝くたれんじゃねぇぞ?」
ひげクマめ。どうしてこの人とそんな親しげな口が聞けるんだうらやましい。
いいなぁ。俺も里でそだったらこの人ともうちょっと親しくなれただろうか。
温かい人。…絶対に俺なんか見てくれない人。
この人は弱くてかわいいものが好きだから、里一番とまで言われて、しかも図体もでかくて同性で、かわいい所なんて多分一つもない俺のことなんかきっとなんとも思ってない。
それが、酷く寂しい。こうして時々でいいから強請らせてくれないかなぁ。溢れかえってる愛ってヤツを、欠片だけでいいから。
「イルカ先生。どっかその辺で寝ちゃうの?それなら持って帰りたいんだけど。心配だし」
「大丈夫です!夏ですから!」
「そういう問題じゃねぇだろ…」
うーん。駄目そうか。やっぱり俺じゃ駄目なんだなぁ。
悲しい気分に浸ってたら、イルカ先生がたくさん撫でてくれた。
なんだろう?やっぱり今日は酔っ払ってるせい?
「あ、あの!そ、ソイツちょっと今日失恋したてっていうか!すみません!それでその!お、怒らないでやってください!」
「別に、へーき」
むしろ邪魔すんな。一緒に飯とか食ってもらえるくせに。
嫉妬交じりの視線なんか向けたら、クマはともかく紅には絶対ばれるから我慢した。
「ねぇ?愛したいー!ってキャラだったの?イルカ先生」
にんまりと笑う口はアレだけ飲み食いしたのにつややかな口紅が艶を放っている。
なんなの?今だけ位イルカ先生独り占めしたいのに。
「はい。もーこうしてこうしていっぱい…でも俺のじゃないんだよなぁ」
「え!泣かないで!どうしちゃったのイルカ先生?」
頭をぐしゃぐしゃにされた。しかも泣き出した。どういうこと?
泣き顔を見ると胸が痛くてたまらないから抱きしめた。
「えへへーあったけぇなあ!」
「そうですか。よかった」
「…はたけ上忍も大分酔ってるんですね…」
「そうねぇ…?ね、カカシ。愛されたいんでしょ?」
「えー…まあうん。そうだけど」
「ならいいじゃない。その人で。…ねー?イルカ先生もそう思うでしょ?」
「ふぇ?」
ああもうかわいい。ほわほわした顔しちゃってもう!
「あ、あの!?もしかして?」
「なんだ、あーその?」
「どうなの?イルカ先生。カカシ、貰ってくれないの?そんなにかわいがって途中で捨てるなんて酷いわ?」
酷いなんて少しも思ってない余裕たっぷりの笑顔で詰め寄られて、お人よしのこの人がどうするかなんて分かりきっていた。
「え!いいんですか!やった!いやー…実はずーっと俺のことみてくれないかなーって思ってたんです!そうしたらやっぱり気づかれて彼女に振られちまって…そんな駄目なヤツですけど、俺でいいんですか?」
顔が、近い。どうしよう。おいしそう。
「はい。お付き合いしてください」
かわいくなんてないし弱くもないけど、酔っ払ってても上忍2人と中忍1人の証言があれば十分なはず。
そんな打算が働いて、ついでに既成事実も作ろうと口付けた。
「んー!んー!?」
「さ、帰るわよ」
「お、おい!アレ放っておくのか!?」
「イルカー…えーっと。じゃあなー!お幸せにー!」
クマを引きずりながら紅がご機嫌な足取りで去っていく。中忍も逃げるようにいなくなった。
二人っきりだ。
「好き。俺でも大事にしてくれる?」
「もちろんです!アンタみたいにかわいくて心配な人はじめてみましたし!俺のモノならいくらでもかまっていいですよね!」
キラキラした瞳でそう告げられて、嬉しくて嬉しくて舞い上がって。
だから、ついそのままお持ち帰りして最後まで頂いちゃったけど、多分俺は悪くないと思う。
*****
「うーえーあー」
「はいお水。ごはんも食べる?」
「食べます…うー…」
やり過ぎた。女相手はまだしも男なんて始めてだし、イルカ先生に至っては男も初めてだし、多分女もそう経験があるとは思えなかった。
初心者同士暴走した結果、愛しい人はこうしてベッドうなり声を上げているわけだ。
だって誘ってきたし突っ込むまではすごく抵抗されたけど、何でかしらないけど俺だって気持ちよくするんだとかムキになっていろいろしてくれたし、そしたらもう止まれなかったんだもん。
「ごめんね?」
でもちゃんと謝っておく。やりすぎたのはよくなかったし、イルカ先生に嫌われたくない。
それなのに、なんでかしらないけどイルカ先生の眉間に盛大に皺が寄った。どうしよう?怒らせちゃった?
「俺がご飯作ってあげたかったのに…!しかもアンタかわいいけどケダモノだしかわいいし!どういうことだ!」
「う…ご、ごめ…」
「あやまんな!かわいいだけなんだから!もうもう!好きだ!」
「えーっと俺も好きです!」
「ならいい!飯食ったら一緒に寝るんです!」
なんだかよくわからない。でも好きって言ってくれたんだからいいよね?
ふわふわした気持ちのままイルカ先生を抱きしめておいた。

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適当。
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