狂犬(適当)


「イルカ先生!」
気がつけば受け持った下忍たちが縁で、この人となんだかんだとつるむようになっていた。
幼い頃から忍をやってきた。高ランクの陰惨だと騒がれるような任務についても今更血に狂う訳もない。
ただ少しばかり心がささくれる日もあるわけで。
そんな日にたまたま行き会って、何かの拍子に飯でも一緒に食いましょうなんて誘われたのが最初の話。
気づけばこの短い間で随分と親しくなった気がする。
普段なら人付き合いなど面倒でしかないと思うほうであるのに、この人は違った。
昔の俺に聴けば、笑顔が人を癒すなど何の冗談だと切り捨てただろう。
今の俺には、その意味が良く分かる。
酒を酌み交わし、他愛のない会話を交わし、飯を一緒に食うだけだ。…それだけで、俺は癒される。
だからその日も、酒を飲む約束をしていたあの人を探しにアカデミーへやってきたのだ。
確か受付にいると聞いていたのに姿はなくて、心なしかもう一人の受付担当者の顔色が悪かった所をみると、よほどアカデミーの業務が忙しいのだろう。
ここに、あの人がいない。…それだけで、気づけばアカデミーに直行していた。
門をくぐり、殆どの子どもが帰って人気のないグラウンドを横切って、それから職員室に面した裏庭までようやっとたどり着いたんだが…。
「あ、カカシ先生!任務が終わったんですね!」
いつものように穏やかに微笑む人の手は、真っ赤に染まっていた。
「イルカ先生!?怪我は!?」
大慌てで触れた手には、見た範囲傷は見当たらない。勿論他の部分を疑い、全身を確かめたが、怪我ではなくどうやら…返り血のようだ。
任務だったのか。この人も。
そう思った俺の思考を読んだかのように、イルカ先生が悪戯っぽく、だが恥ずかしそうに微笑んだ。
「ちょっと喧嘩売られてあまりにも理不尽だったので、やりすぎちゃいました」
そう言われたと同時に、背後からずるりと何かが這い寄ってきたのが見えた。
「イルカ先生。こいつらは…!?」
思わず身構えた。…ずいぶんとぼろぼろだ。服も、それから身体も。怯え、逃げようとしたんだろうに、俺を見てひぃっと悲鳴を上げて気絶してしまった。
…つまりは、これをイルカ先生が一人でやったということだろうか。
「あー…その。つい。だってカカシさんの悪口なんていうもので…有名税だって分かってても、不愉快で見過ごせませんでした」
笑顔はいつも通り凪いでいる。
…その瞳の輝きだけはまるで違っているけれど。
「ありがと。でも危ないから行きましょう?」
上忍の俺でもぞっとするようなぎらついた瞳をしていた。
正直言って、イルカ先生より明らかに治療が必要な連中の方が重症だ。
でも、イルカ先生は多分まだ納得していない。…コレだけの状態にしておいて。
だからつまり今、むしろ危ないのは連中の命だ。
それにしてもそうか。そういえばこの人も忍だったっけ。
寒気がするほどの殺気など、めったに感じることはないんだが。
大急ぎでイルカ先生の手を握ってアカデミーから連れ出した。
…俺のために怒ってくれたってことを、なぜか嬉しいと思いながら。

イルカ先生の渾名がかつて狂犬だったとか、敵と判断すると相手がぼろぼろになってもなお止まらない性格をしているとか、大事なものは閉じ込めそうな勢いで大事にするとかっていう、過去の噂を耳にしたのはそれから数日後だ。
…そのときにはもう手遅れだったけど。
だって、上忍で元暗部めろめろに甘やかして、すごくすごーく大事にしてくれるから、だから。
俺はもうとっくに恋に落ちてしまっていた。
「カカシさん。美味いですよ!コレ!」
「ホント?あ、美味い!」
ああ、いつ言おう。好きだって。
気持ち悪がられるのは辛いけど、イルカ先生にならなにされてもいいんだけどなー?
そんな暢気なことを考えていた俺は知らなかった。
…いつの間にかイルカ先生が、遠大にもほどがある俺飼育計画をスタートさせていることなんて。


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適当。
最終的に飼われちゃいます☆(ゝω・)vキャピ
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