空腹

「あー…腹減った」
今までこんなことなかったのになぁ…。そう思いながらひもじいと訴えてくる腹をさすっては見たが、それで腹が満たされるわけでもなく。
ただ空腹だという感覚と侘しさが酷くなっただけだった。
「先輩、珍しいですね?普段禄に食べないじゃないですか」
久しぶりに共に任務につくコトになった後輩は驚きを隠そうともしない。
そりゃそうだろう。俺だって驚いている。
食事ができることの方が少なかったし、食えたとしてもまともな物が食べられないくらい当たり前だった。
空腹なんて感覚は随分と久しぶりだから、馴染みの無いこの感覚に戸惑うばかりだ。
「でも、今日里を出て着たばっかりじゃないですか?何も食べなかったんですか?」
後輩がちょっと焦っているのは、恐らく俺が任務をはしごしていた頃のことを思い出したからだろう。
暗部なんて物をやってると、里よりもずっと多くの時間を外で過ごす。そして任務が立て続けに入ることも珍しくなかった。
当然、食事はもとより睡眠も普通に生活している人々が当たり前に持っている自由な時間なんてものも縁がなく、たまに時間が出来ても俺がしていたことと言えば、修行と趣味の読書だけ。
その時もこの後輩は文句を言いながら俺のことを心配していた。…と思う。任務のことだけ考えて生きていたからうろ覚えだけど。
まその心配は的外れなんだけど。
「食べてきたんだけよねー?」
それも、結構な量を。
確か飯に味噌汁に魚に昨日の残りのがんもの煮物。それから漬物。
それでも足りないって言うのは、もともとの俺を知っている後輩からしたらきっと驚く所の騒ぎじゃないだろうから言わないけど。
「どうせまた兵糧丸だけにしたんでしょう!戦闘中に腹鳴らしたりしないでくださいよー?」
呆れた口調はあの人を思い出させたけれど、可愛くない後輩にそんなコト言われても嬉しくもない。ただ、寂しさが募るだけ。
「うーるさいよ。…戦闘中は流石に大丈夫でしょ?ただちょっと恋しいだけー」
食い物を前にしたあの人の顔を見ているだけで、腹が満たされる。…それから勿論心も。
ま、別の方向では飢えちゃうから暴走しちゃって、今朝もベッドの中から睨みつけられちゃったけど。
「先輩も人の子だったんですねぇ…驚きだ」
大概失礼な物言いも、後輩なりに俺を案じていたからと流してやるコトにして、この切ない空虚さを誤魔化すために、出掛けのあの人を思い出す。
散々したから禄に動けもしないのに、涙目でうーうー言いながら怪我しちゃ駄目ですよ!なんて言ってくれたっけ。
食事は一緒に食べてから襲ったから大丈夫だと思うけど、今頃寂しくて泣いてるんじゃないかなんてありえない不安と…喜びに浸る。
寂しがりやなあの人が、もっと俺に依存してくれるといい。
それを想像するだけでふわりと顔が緩んだ。
「里って…そんなにいい所ですか?」
俺の雰囲気が変わったのによほど驚いたんだろう。後輩はどこか寂しげに言った。
そういえば、コイツもずっと一人だ。生い立ちのせいもあるだろうが、俺と同じで里にどこか違和感を感じているところがある。
だが。
「そうねぇ。いい所って言うか…あの人の側にいられるから」
里の空気に馴染めずにいるコイツも、きっとそのうち見つけるだろう。
自分の居場所だと、絶対に譲れないと思える相手を。
ま、俺と違ってコイツは晩生だから、よっぽど強引な相手じゃないと難しいかもしれないが。
「ノロケはもういいですよ!全く…早く、帰りましょうね」
俺を気遣う部下にも、早くそんな相手が現れるといい。
柄にもなくそんなコトを思いながら先を急ぐ。
「そうね…腹、減ったし…早く帰ろ」
帰ったら何を作ろうか?魚が好きだけど魚ばっかりだと悲しそうな顔するあの人のために何かもっと美味しい物を作って上げられるといい。
きっとまた子どもみたいにはしゃいで、それから照れくさそうにお礼を言ってくれるだろう。そしたら抱きしめてキスしてそれから…待っているのは幸せな時間。
だから、早く片付けて帰ろう。この空腹を満たすために。俺の全部を埋めてくれる人のところに帰るために。
また速度を上げた俺の後ろで、後輩がブツブツ文句を言っていたけど、ぼそっと「幸せになってくださいよー?僕にこんな苦労させるんですから!」なんて減らず口には、そのうちコイツにそういう相手ができたら、どんどんちょっかいをかけることで答えてやろうと思った。


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適当!
あれです。寒いとおなかが減るからです。←アホ。
ではではー!一応!ご意見ご感想など、お気軽にどうぞー!

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