くるん(適当)



「ねー」
「なんですか?」
「まだ、駄目なの?」
「ええ。駄目です」
ああもう!いい笑顔しちゃって!
布団蒸しっていうの?これ。初めて経験したんだけど。
ぐるぐる巻きにされた上にチャクラ封じの縄できっちり縛ってあって、そんなの簡単に壊せるんだけど、壊したら布団ごとになっちゃうんだもん。そんなことできないじゃない?
イルカ先生と一緒に暮らすって泣いて喚いて駄々捏ねて、縋ったついでに押し倒してやっとここまできたのに。
初夜につかった思い出深い布団を、こんな事で壊したら泣くに泣けない。
「せんせーせんせーさみしいです…」
だって身動きできないのは別に平気だけど、側にいるのに触れることもできない。
こっちを見てもくれないし、こっちから声を掛けても気のない返事しか返ってこないし、もちろん向こうから触っても貰えない。
こんな目に合うくらいなら、いつもみたいに容赦ない拳骨でしかられる方がよっぽどいい。
「そうですか。俺が側にいても?」
余裕たっぷりに微笑まれて、鼻先に指先が触れた。
ちょっと嬉しい。…うん。まあそれって多分おかしいんだと思うけど、ほっとかれるよりずっといいもん。
「もっと撫でてください」
首をかしげてのおねだりは、イルカ先生の弱点だ。
曲がりなりにも中忍。それも結構優秀な方に入るこの人を最初に組み敷くのははっきり言って難しい。
傷つけちゃうつもりはないし、かといって逃がす気もなかった俺が取った作戦。
…それは、かわいい俺でうっかり油断させちゃいましょう大作戦である。
イルカ先生は子どもに弱い。お年寄りキラーでもあるけどそれはおいといて。
庇護欲をそそる存在に無茶苦茶ガードが甘いんだよね。
好き好き言ってしつこくしても、殴られるくらいで済んでいたのは多分そのせいだ。
上訴すれば処分されるスレスレの付きまといっぷりを見せた俺にも、この人は優しかった。
それを知ったのがずたぼろになって里に帰ってきたときに、全力で構い倒されたときのことなんだけど。
そこで優しさに感動するだけじゃなくて、弱ってる所をみせればイけると確信した俺は、多分人でなしなんだろう。ま、今更なにが変わるつもりもないからいいんだけど。
だからあの時も、ちゃっかりこれを使わせてもらった。
ちょっとめそめそしてみせて、それからおねだりして隙を突いて最後まで突っ走ってもう最高に気持ちイイ時間を過ごしたっけ。
思い出すだけで幸せな気分になる。
それ以来警戒するようになったんだけど、やっぱりこういうのに弱くて、どんなに怒っててもこれをするとちょっと態度が軟化する。
それは今回も変わらなかった。
「…ッ!」
息を飲んだのが分かる。もうねー。先生だって俺のこと構うの好きなんだからさ、早くこれ解いて?そんで抱きしめてよ。
そしたら朝まで気持ちイイことだけして過ごせるんだから。
急ぎの書類仕事とやらは俺にだって手伝えると思うのに、意地っ張りだから俺には何もさせてくれないし、邪魔するからってこんなことするし、一生懸命な横顔はかっこいいけどやつれて手心配だし!
はやく。ねぇはやくこれほどいて。
視線で訴えて、そうしてイルカ先生はそれに負けた。
「い、いいですか!邪魔したらまた同じことしますからね!」
「はぁい!」
いい子で待ってなきゃね?しばらくは。
ま、さっきはいきなり布団敷いてるからうっかり隙ができちゃっただけで、二度目はないけど。
「わかればよし!じゃあもうしばらく我慢してくださいね?」
さっと背を向けられてももう辛くない。だってね?耳の裏まで真っ赤なんだもん。
にへにへ頬を緩ませながら背を見つめた。
お仕事がおわったらたっぷりイルカ先生を堪能しようと決め込んで。

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適当。
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