ふってわいてころがって(適当)


「おい」
「は?」
「は?じゃねぇよ。何だお前。何してんだ?」
玄関先で小生意気そうな小僧…っていっても顔半分覆面で隠してるから目つきだけでの判断だが、まず間違いないだろう。まあとにかく、ふてぶてしい顔したチビすけが、壁に背を持たれて転がっていた。
見たところ俺の生徒じゃないが、そもそもアカデミー生でもなさそうだ。
年齢的には丁度うち一番の問題児と同じかちょっと下くらいにみえる。何せほそっこいし色白だし、髪の色も綺麗な銀色だ。
さて、どうするか。
「うるせー」
「飯食ったか?」
「は?」
「だから、は?じゃねぇよ。飯は食ったかって聞いてんだ」
「…食べてないけど。それがなに?」
「そうかそうか。一楽…は流石にもう開いてねぇな…。おい。魚平気か?」
「え?あ。うん」
よしよし。素直でよろしい。やっぱり生意気なチビには勢いで押すのが一番だな。
返事しちまってからちょっと悔しそうにはしてるが、とりあえずこんな弱ってそうなイキモノが側にいたら、モリモリ食わせて太らせたくなるじゃないか。
「じゃ、魚焼くからそれまで…もらい物のせんべいと羊羹でも食って待っててくれ」
ひょいっと持ち上げたら、物凄く驚いた顔してそれがおもしろかった。
正気づいて暴れられる前にとサンダルも脱がせて転がってたせいで汚れていそうな服も適当にはらう。
ホントは風呂に入れたいが、ナルトのTシャツと短パンでもいけるか?下着は…新品のふんどしならあるんだけどな。でもなぁ。ナルトに断固拒否されたからなぁ?俺のトランクスじゃ流石にでかすぎるだろうし。
まあ何とかなるかと一人ごちて、風呂の湯を溜め始める。なんか肌弱そうだし、温泉の素はナシにして、ナルトのアヒルは…どうだろうなあ?使うか?そもそもサスケが家に来たとき迷いなく入れてやったらものすごーく困った顔されたし、ナルトも俺のだからトクベツに許してやってもいいってばよとか言いながらしょんぼりしてたしな。どうしようか。
しばし悩んで棚に戻し、部屋に戻ると憮然とした顔で小僧がぼそっと呟いた。
「…羊羹はいらない」
「そうかそうか。で、お前風呂は一人で入れるか?」
「馬鹿にしてんの?それとも本気?」
意外と元気だな。ホッとした。さっきまでの妙にギラついてた目も落ち着くと中々かわいい顔をしている。
女の子?じゃねぇよな。この言葉遣いで女の子なら説教モノだ。
「おっし、じゃあ、風呂、入って来い。せんべいと羊羹はここにおいとくから」
「羊羹はいらないって。甘いもの嫌いなの」
「お、そうか。じゃ、卵焼きも甘いのだめか?」
「…卵焼きは平気」
「よしわかった。まあいいから風呂入って来い。風呂場はそこな?お前埃っぽいからな」
膨れっ面でそっぽ向く辺り、かわいいじゃないか。食欲はありそうだからホッとした。それから卵焼きが平気だってことにも。
うちには今碌な食いもんがないからな…。貰った卵焼きと、貰ったほうれん草と、これもまた貰い物の干物しかない。俺なら卵焼きと酒だけでもいいが、子どもには栄養とらせないとな。
なべに水を入れて火にかけ、ついでに魚はトースターに放り込む。貰い物の年代モノだが温度調節ができる優れものだ。パンなんか食わねぇからなー。もっぱら焼き魚とか焼き為すとか焼き鳥あっためたりするのにしか使っていない。
「ん?どうした?」
ふと視線を背後にやると、座布団に座らせたチビ助がさっきと寸分たがわぬ姿勢でいる。いやむしろちょっとぐらぐらしてる。
「べ、べつになんでも」
それにこの慌てた態度。意地張ってる子供は分かりやすいが、つまりこの状態は。
「…ちょっとまて。お前チャクラ切れか。そういうことは早く言え!」
「…だって」
「だってじゃねえ。あーもうしょうがねぇなぁ。怪我はないか?病院のがいいか?」
「病院はヤダ。寝てれば治る」
「そうか」
まあそうだな。俺もやったことがあるが、アレは辛い。家ならまだしも病院で身動きもとれずに、しかも他人の気配は感じ取れるから落ち着かないんだ。…まあ便所にも自力でいけないからしょうがないんだが。
ましてや子どもだ。この感じだと…この子も親ナシか?しかも任務に出てたのかもしれない。こんなチビだってのに!
「なによ。ほっといていいよ。家の前に転がってたのは悪かったよ」
「まずは風呂だな。腹は…動いてそうだから飯も食え」
「は?」
「魚はタイマーだし、ほうれん草だけゆでちまうからちょっと待ってろ」
「え?ちょっと!」
騒ぐ割に動きの悪いチビすけを即席座布団ベッドに転がして、さっさとほうれん草だけゆでて、氷水の中に突っ込む。これやんないとありえない色になるんだよな。最初の頃は家で食うのはそういうもんだと思ってたけど、弁当を目撃された近所のおばちゃんたちに色々教わった。…まあ心配されすぎてもらいモノ祭状態だけどな…。労働だけじゃお礼になってないよなー。
「ねぇ。だからさ」
「お!すまん待たせた!風呂な。風呂!」
「ちょっとねぇ!」
騒ぐチビすけの服は洗濯機に入れた。これもおばちゃんたちご推奨の、スイッチ一つで乾燥まで出来る優れものだ。薄給中忍には手痛い出費だったが、確かにこれほど便利なものはない。ほっとけば乾くんだもんな!家電すら貰い物だらけの俺の家じゃ浮いてるが、これだけは張り込んでおいてよかったと思っている。
ついでに俺も風呂に入ることにして、適当に服を脱ぎ捨てる。
「え」
「髪洗うぞー」
「わ!ちょっと!なにすんの!」
「シャンプー入るから目、瞑ってろよ?」
「っ!」
人の体見て固まるとか失礼だなと思ったが、そういや俺は今結構傷だらけなんだった。この間まで任務詰めだったからなぁ。ふさがったばっかりだし、見た目はえぐいかもしれない。悪いことしちまったな。ナルトにもべそかかれたのに忘れてた。
ひとしきり泡まみれにして、素直に目を閉じているちびすけの頭をしっかり洗ってやった。ついでにこっそりキューピーみたいにしてちょっと楽しんで、流石にそろそろ怪訝そうな気配を滲ませ始めたので惜しみつつも洗い流すことにする。
「うっし!流すぞー」
「ぅっ!いやだから俺は自分で」
「はは!なーにあせってんだ?」
お湯をぶっ掛けたら大人しくなったのをいいことに、リンスもしておく。上がるときに流せばいいだろう。
「次からだ流すぞー」
「え!ちょっと!それは流石に!」
「腕挙げられるか?って、無理だよなー?まあいいや。いくぞー」
「きゃー!へんたいー!」
お。子どもらしい声じゃないか。変態って…まさかそういう目に合わされた事があるんじゃないだろうな?後で聞きだすべきか…? まあとにかく子どもを洗うのはナルトでなれた。サスケも銭湯で行きあったら背中流してやってるし、熱出しても意地っ張りで一人で何とかしようとするからなー。そういやコイツ、なんとなくサスケに似てるな。態度が。まあアイツは変態とか、間違っても言わないけどな。
「なーがーすーぞー」
「…うん」
悄然とした風情にちょっとだけ悪かったかなーと思ったものの、まあ綺麗になったんだからいいよな?
「じゃ、俺も洗うから湯船…大丈夫か?」
「う、ん。まあ一応」
「危なかったら言えよ?」
なんか顔真っ赤だな。大丈夫か?湯中りされたら困るからいそがねぇと。
普段の二倍くらいの速さで体を流し、髪の毛も適当に洗う。石鹸で洗うと近所のおばちゃんたちに察知されるから、一応シャンプーだ。子どもたちを洗うならまだしも、自分で使うのはめんどくさい。リンスしたらしばらくおいとくとか面倒すぎるよな。
…煮物、美味いんだ。サボると、あげないって言われるからな…。
「あの、ね?俺…」
「隣入るぞー。捕まってろ」
「え!…ッ!」
背後から捕まえて膝に乗せる。いつもの姿勢なんだが急に固まられた。顔赤いな。やっぱり。すぐでないとまずそうだ。長湯好きの俺にとっちゃ辛いが、そんなこと言ってられない。
「のぼせたか?頭流したら出ような?」
「わっいやそうじゃなくて!」
「りんごジュースもあるけど、お前甘いの駄目なんだよな?あ、でも麦茶はあるぞ!」
「…もういいや。なんでも…」
よくわからんが落ち込んでる様子のチビすけをタオルでしっかり拭いて、カエル柄のTシャツにはやっぱり驚いた顔をされたけど着せてやった。パンツは幸いナルト用の予備が一枚あったからそれで間に合わせたし、意外となんとかなるもんだ。柄がだせぇって言われてそのままだったんだよな。文句言うなって言ったら意地になって泣き出したから流石になー…手裏剣柄括弧いいと思ったんだけどな。
チビすけは逆にもたつきつつもいそいそ穿いてたからまあ結果オーライだな。飯も大人しく食ってたし、布団に転がしといても文句も言わなかった。
風呂上りにパンツ一丁といきたい所を我慢して、俺もTシャツだけはきといたしな。ふんどしは不評そうだからトランクスだし。
「しっかり寝ろよ?動けるになったら送ってってやる」
「…アンタ、やっぱりお人よしだね」
「アンタじゃねぇぞ。イルカだ。うみのイルカ。お前の名前は?」
「ナイショ」
「ナイショか。じゃあナイショ。お前の服まだ乾かないんだけど、明日になったら乾いてるから俺が忘れてそうだったら教えてくれ」
「ナイショってそういう意味じゃないんだけど」
「はは!そうか!」
「…カカシ。覚えといて」
「カカシな?覚えとくよ」
妙に真剣な目だ。綺麗な色してるよな。深い海みたいな。
「諦めようかと思ったんだけど、やっぱり諦めるの止めとくね?」
「…そうだなぁ。何の話かしらねぇけど、諦めるってのはもったいないからな…」
子どもの体温ってのはどうしてこうも眠くなるんだろう。あったけぇな。
「おや、すみ」
「ん。おやすみ。…ま、あんな所まで全部みちゃったし、覚悟しといてよ」
ちびすけ…もとい、カカシが笑う声を始めて聞いて、それが嬉しくてちょっと笑って、それから。ホッとするあまり、俺はさっさと意識を手放したのだった。

動けるようになった途端、俺と同じくらいの年齢に化けた、というか戻ったらしいカカシに押し倒されかけるなんてことを考えもせずに。
 

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適当。
ありがちなアレ。

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