校長室にて(適当)


「おいしそう」
 それがどこぞの料亭の食事だとか、せめてラーメンでも前にしたセリフなら良かった。この人は火影の座を退いてなお忍であることを止めていない。しかも未だにとびっきりの腕利きであるはずの人だが、外見ばかりじゃなく、中身まで年を取らないってのは大問題だ。
 人の尻に、それもいい年したおっさんの尻にジッタリと欲で湿った視線を寄越しつつ呟くにしては酷い内容すぎるだろう?ましてやここは校長室。神聖な、とまでは言う気はないが、シモに走った言動を看過できるような場所でもない。十九二十歳の若造ならまだしも、とっくに四十路を迎えた身で一向にそっちの欲が枯れた様子がないのに呆れていいのか悪いのか。
 まあ健康であってくれること自体はありがたいし嬉しいんだけどな。
「…聞かなかったことにしますよ。カカシさん」
「えー?」
 気配もなく背中に張り付いて、耳元でクスクス笑いをしてくるのにも、未だに慣れることができない。
 反応なんかしたら相手の思う壺だ。それでなくてもこの人は今浮足立っているから。自覚しているかまでは知らないが、どうやら教え子の子どもの力を試せるってのが、相当嬉しいらしい。わざわざ変装までしてちょっかいかけにいくなんて久しぶりだ。ウキウキしながらカツラだのコンタクトだのを用意し始めたときには、何を企んでるか不安になったが、ターゲットを聞けばこの人の意図は把握できた。ちょっと子供たちの様子を見てきますってセリフには不安しか感じなかったが。
 できればお手柔らかに願いたいもんだけどなあ。あの子が生まれてからなにくれとなく面倒を見てやっていたのも知っているし、おっちゃん呼ばわりされるくらいには向こうにも懐かれている。それがやる気満々でかかってこられたら、驚くなんてもんじゃないだろう。きっと。
 ナルトとは違った意味で手のかかる子だからなぁ…。大事にならなきゃいいんだけどな。
「俺が側にいるのに他所事考えてるなんて酷いんじゃないの?イルカ校長先生?」
 背後から無理やり顎を掬い上げられて唇に吐息がかかる。側にいるのに他のことを考えたのが余程気に入らなかったんだろう。潰してみるのも面白いなんて言ってた頃と、この人の中身は変わっていない気がする。まあ多少丸くなって、図太さは増したが。
 ある意味里で一番手がかかるのはこの人なんだよな。ったく。
「そっちこそ。俺がいるのに頭はあの子のことで一杯なんでしょうが」
 額を指で弾いてやったら、メイクをとっても未だに若々しい人は、欲を隠そうともしない顔でにんまりと笑って見せた。
「いいね。そういうの。もっと嫉妬してくれたらいいのに」
「なに言ってんですか!全くもう!無茶しないでくださいよ?くれぐれも!」
「イルカ先生のお願いだもんね。ま、ほどほどにしますよ。多分ね?」
 この人の口にするほどほどなんて言葉はひとっ欠片も信用できない。ほどほどにと称して何度酷い目にあったことか。最初からして酷かったんだ。教え子の上忍師として、つかず離れず…まあ一度派手に言い争いはしたが、ただの知り合いとしてはわずかに距離が近いって程度の関係だったはずのあの頃。初めてだからねと笑うこの人からは血の匂いがしていて、まだ片目に収まっていた赤い目でもって四肢の自由を奪われて、あろうことか任務中だってのに外でコトに及ばれた。
 去り際にまたねと笑ったこの人は、散々突っ込まれてドロドロになった俺を担いで家に放り込んではくれたが、手当というには卑猥な手つきで自分が吐き出した始末して、興奮したと呟いたかと思ったら顔に掛けて…。犬にでも噛まれたと思おうと努力したってのに、それは始まりにすぎず、気づけば一方的なはずだった関係は、周囲からもそういう関係だと納得されるようなものに変わってしまった。
 …思えば随分な目に遭ってきたよな…。
 全力で抵抗してみせれば、あんたに触れないと駄目になるとか、戦えなくなってもいいのとか脅してきやがるし、そうかと思えば敵の襲撃にあった俺をかばってあっさり一度死んだし、生き返って無事を確認した途端に泣いた俺をまたズタボロに…。
 今にして思えば泣きながら置いていかないなんて言われても、それはこっちのセリフだと叫んだときに、多分もう後戻りはできなくなっていたんだろう。
「くれぐれも頼みますよ?」
「はぁい」
 返事はすこぶるよろしいが、どこまで加減してくれるかは運次第だろう。まあこれでも大分マシになった。欲に任せてぐちゃぐちゃにされることも減った。ねちっこさは増した気がするが、ただひたすらにくっついていたがることに目をつぶれば、歴代火影の中でも最も安定した治世を作った人だしな。
 優秀な人なんだよ。ちょっと拗らせているだけで。
「…どこ触ってんですか。何当ててんですか」
「かわいいお尻に挿れたいだけだけど?」
「ここをどこだと思っていやがる…?」
「怒ったの?かわいー」
 元火影の口から飛び出すにしては軽薄なセリフだ。そもそも怒っていることを喜ばれたら打つ手がない。自分に関心を向けられることがこの人にとって一番の重要事項だからな。どうやら俺に限っての話だが。
「帰りましょう。カツラとカメラ。ちゃんと忘れずに片づけてくださいよ?」
 こんなものがここにあったら、聡い子なら何があったか気づくだろう。元火影様のろくでもない悪戯が白日の下に晒されるなんてことは避けたい。この爛れた関係までは分からなくても、不信感を抱かれたくはない。
 素顔を知っている俺でさえ驚くほどきれいに化けるからな。この人は。顔見知りの上忍仲間でさえ別人に見える変装だ。元火影の素顔なんて、極一部しかしらないある意味機密みたいなものを、わざわざ知らしめる必要もないだろう。
「ん。…ね。あの格好でまたヤッてみたい?」
「お断りします!いい加減にしないと…!」
「しないと?」
 この余裕たっぷりに笑うところが腹立たしいのに、こういう時のこの人はやたら綺麗な顔をするから目を奪われる。さっきのセリフも大概だったが、根っ子の部分が戦うためにできてるんだよな。
 勝てる気もしないし、勝つ気もない。ただこの人を大人しくさせられればいい。せめてここを出るまではな。
「…水練の授業に復帰しますよ?水着で」
「ッ!なに言ってんの。許すと思ってるの?第一今は冬…」
「それが寒中水泳があるんですよね。ちょうど年始に」
「ダメダメダメ。そんなの駄目。許さないよ」
 凄むと色気が増すのも困りものだ。こんな下らないことでこの人がこんなに真剣になるのも問題だ。だが今は他に打てる手がない。
 俺も随分丸くなったな。昔なら当たらなくても拳骨一発や二発は放っていたところだ。
「ならいい子でおうちまで我慢してくださいよ。六代目?」
「…覚えてなさいよ…?」
 懐柔策という名の脅しの効果は十分にあったらしい。吊り上がった目には欲がちらついたままで、歯ぎしりでも聞こえてきそうだ。人を射殺しそうな目をしながら尻を触るってどういうつもりなんだかな。しょうがない。今日は仕事を切り上げるしかないだろう。
「帰りましょう…?」
 誘うような真似は何度試してもちっとも上手く行かなくて、それでもそれを面白がって乗ってくるのがこの男だ。
 案の定、大分曲がったへそはマシになったらしい。
「ん。じゃ、帰ろう?」
 荷物はいつの間にか纏められていて、火影の名を背に負った姿で当然のように手を引いてくれる。まあ半分以上は逃がさない為だろうが、その必死さがなければこんな風にほだされたりはしなかった。
「ふふ」
「ふぅん?余裕だね?校長先生は」
「六代目様こそ」
 手に手を取って、当たり前のようにドアを開けて歩き出す。家に帰ればまたすったもんだの大騒ぎが待っているだろう。
 それを少しばかり楽しめる余裕が今はある。昔と違って、重ねた時が世界を変えてくれた。それを許されるほどに側にいられたことを、素直に嬉しいと思う。
 調子に乗るから口で言ってやるつもりはないけどな。
「なにしてもらおうかなあ?ねぇ。イルカ先生」
「その前に、晩飯は何ですか?」
「…おでん。カカシ風」
「そりゃ楽しみだ!」
 ぶすくれていても、きっちりやることはやるんだよな。しかもおでんだ。変わったものが入っているのに美味いんだよなぁ。この人のは。
「食べたらってことにしておきますよ。その分たっぷり頑張ってね?」
「さあ、それはどうでしょう?」
 揶揄う言葉にもめげずに尻に手を伸ばすのを適当にいなし、家路を急いだ。二人の場所に帰るために。

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スケアさん×校長先生もいっちょいってみたいもんですが、皆様書いてくださりそうなのでこの辺で。

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