無自覚恋愛(適当)


「遊ぶ?」
袖を引く子どもに見覚えはなかった。
人の顔をおぼえるのは苦手な方じゃない。
それにアカデミーで教職についてからは、尚更子どもたちの顔を覚えるようにしていた。
これでも忍だ。人の顔をおぼえることはさほど苦じゃない。
それでも最初の頃はかかわりの薄い生徒を覚えきるのに時間はかかったが、今では受け持ちの学年は勿論、それ以外の子どもたちの顔も完璧だ。
有事の際には子どもたちを全員非難させる責務が俺たちにはある。
一人でもかけさせるわけには行かないのだ。
元々子ども好きなのもあって、子どもたちと話す機会は多く、気付けばアカデミーに通う子どもたちの兄弟まで声を掛けてくれるようになった。
要するに里内で、俺が知らない顔の方が少ないってことだ。
だがこの子どもは、そのどれにも似ていない。
親戚や、里の外のこどもって可能性もあるんだけどな。
だがそんなものよりこの色彩に見覚えがありすぎた。
「カカシさ…いや、まさかな」
隠し子…そんな単語が頭を過ぎる。
本当なら失礼千万だが、思わずそう判断してしまうだけの理由があった。
かの上忍が女達と流した浮名は数知れず、人知れず孕んだ女の一人や二人いてもおかしくないほど、異性関係は派手だった。 ひょんな切っ掛けから友人のように親しく付き合うようになってからも、その噂の通り女性からはもてていたようだし、こうして俺のところへ来たのも何かのめぐり合わせかもしれない。
決め付けるのはよくないということもよく分かっている。
…だが、みれば見るほどそっくりなのだ。
普段素顔をさらさない人ではあるが、家で飲む時は気を緩めるのかあっさり口布を下げるのが常だった。
その素顔と今俺の袖を引く子どもの顔は、まさに生き写しといっていいほど似通っている。
「…あそぼ?」
アカデミー教師を志すものは、大抵が子ども好きだ。
…小首をかしげて子どもに強請られて、あっさり断れるものが果たしているだろうか。
そもそも似ていると思った男は、傾城と称されてもおかしくないほどの美形だ。
そのミニチュア版みたいなイキモノが、かわいくないはずがない。
放っておいて俺と同じ推論に至ったものが、善良であるとは限らない。
身内を盾に身代金なんて犯罪や、どこぞの抜け忍にでも狙われた日には大変なことになるだろう。
「しょうがねぇな。チビすけ。俺の家くるか?」
「いいの?」
不安そうに見上げられると胸が締め付けられるような気がしてきた。
なんだかわいいな!
怯えている様子も庇護欲をあおった。この子どもを放っておくわけには行かない。
「おう!お前の知り合いかもしれない人も呼んでみるから待っててくれな?」
そうして式を作って飛ばしたのだ。いつものように。
あの人の下に飛んでいくはずだった鳥は、だが目の前の子どもの肩に止まった。
「あーあ。ばれちゃった」
「え?えぇ!?まさか!なにやってんですか!カカシさん!」
からかわれるのは慣れているが、それにしてもたちの悪い冗談だ。
…いや、速攻誤解というか、隠し子じゃないかなんて疑ったのは悪かったけど…!
「だぁって。遊んでくれないんだもん。最近」
拗ねた子どもの顔で上忍が文句を言った。外見が子どもだから今は違和感がないが、中身は三十路の男だ。…そう考えるとなんだか少し笑えた。
確かにこの所この人に限らず誰かと酒を飲んだ覚えもなければ、飯すらまともに食った記憶がない。
「…じゃあ今晩飯食いませんか?今日は何とかなると思うんですよ」
今里は恐ろしく忙しい。この人だって目が回るほど忙しいはずだ。
何せ一度里の原型なんてなくなるほど滅びたからな。
なんでか知らないが子どもみたい…というか、外見を子どもに変えてまで俺に構って欲しがってるってことは、何か辛い事でもあったんだろう。
俺も、多分寂しかった。ただそんな事を考える余裕すらないくらいに忙しくて忘れていられただけだ。
「ん。じゃ、それで」
にこっと笑った顔がかわいらしい。小さいときもさぞかわいかっただろうと思ったこともあったけど、こりゃ想像以上だなぁ。親御さんは心配の種が尽きなかっただろう。
俺たちがガキだったころは、見てくれのいい子どもが普通に過ごせる時代じゃなかった。
この人はとてもとても強いし、頭もいいから、何とか切り抜けてきたんだろうけどな。
それにこの人は変な所で我慢強い。
怪我してんのかくして酒飲もうなんていいだしたときはぶん殴ったし、毒食らってるのにふらふら俺の家にきて勝手に寝てたこともあったしな。担ぎ上げて病院に放り込んだけど。そういう時はまず治療だろ?病院行け病院!ったく…思い出すだけで腹が立つ。
こうして抱きついてきたのもきっともう限界が近いはずだ。
今のところ怪我はなさそうだけど、この人のことだ。油断は出来ない。
「無理ならときは我慢せずに言うんですよ?」
だから、そう言っただけだ。他の意味なんてなかった。
こんな回りくどい事をせずに、とっとと治療でも何でも受けろといいたかった。
寂しがりやなのは分かってるが、だからって怪我の手当てもせずに俺のとこにいたって本末転倒だろう。
「え!」
目を丸くして驚く子どもに俺まで驚いた。
なんだ?何隠してやがる?この人のことはよく分からないけど、何か隠してるってのは大抵わかるんだけどな?
「カカシさん?」
問い詰めてやろうかと身構えた途端、弾けるように笑い出した。
「はは!そーね。…我慢できなくなったらいーますよ」
「…我慢しねぇで治療受けるんですよ!?」
ったく油断もすきもない!ここの修繕がひと段落つくまで俺は動けないけど、この人を一人にするのも怖かった。
でも側にいろって言うのもなー…多分この人にも任務があるはずだ。
「ね。待っててね?この格好で物陰に引っ張り込もうかと思ったけど、今晩までは我慢するから」
「へ?物陰?」
「じゃ。…あとで」
にこっと笑って去っていく子どもを、見送ることしか出来なかった。
相変わらず訳の分からないことをいう人だとため息をつきながら。
*******
「無理なら言っていいって言いましたよね?」
ご機嫌な顔の上忍がそういって俺を押し倒したのはその日の夜のこと。
何がなんだか分からないうちに服をひん剥かれ、なにすんだって叫んだら、駄目?って…駄目って聞くんだよ!あの子どもだったときみたいな顔で!
思わず抵抗を忘れた。…それが上忍の罠だと勘付いていたのに。
「やられた」
熱の記憶は残念なことに鮮明だ。名を呼ぶ声も、本来突っ込むべき場所じゃない所をこじ開けるため蠢く指が恐ろしく優しくもどかしかったことも、痛みも、それから…気が狂うほど熱くて苦しくて気持ちよくて、散々鳴かされたことも。
好きなんて、あんな状況で言うな。閨での睦言なんざ信じられねぇんだよ。
…あのだらしなく蕩けた表情にウソがないってのは分かったけどな!
「だってもう我慢できなかったんだもん」
子どもみたいに開き直るこの男は、間違いなく年上で男だ。いや突っ込まれたからとかじゃなくて。こんな手管子どもが使えるもんじゃない。
ろくでなしの手段だ。…だから、拒めばよかった。
だが雄の顔をするこの上忍を最後まで拒絶なかったのは…結局はそういうことだ。
「ああくそ!アンタほんっとーにサイテーだ!」
俺の怒りは正当なものだし、男はもっとしょぼくれて謝ってきてもいいはずだ。
…それがありえないのは俺が一番よく分かってるけどな!
「はいはい。責任とって幸せにするから」
だからアンタは死なないでなんて最低の台詞を吐く男の指に噛み付いてやった。
最後までつなぎとめてやるとも。…気付かなかっただけでどうやらずっと前から俺の方もこの人に。だから。
「アンタが置いて行くっていうなら、俺はアンタを引きずり戻して、あまえんじゃねえってぶん殴ります」
だからアンタは生きろというと、泣き笑いの顔でしがみ付いてきた。
あーあ。まったく最悪だ。…こんなヤツに、それも男に惚れるなんて。
…この理不尽な恋が、きっと最後だろう。
このなんだかんだと粘着気質な男が俺を諦めることもないし、この手のことが苦手で頑固な俺がこの男を諦めることもないだろう。
この男が死んだらさっさと追いかけてってぶん殴ろう。置いて行くなんてふざけるなって。先に死んだら待っててやろう。後で来いって爺になるまでしつこく追い返してやろう。
どんなに泣いたって勝手に死ぬなんて許してやらねぇからな。ざまぁみろ!
もういっそそう開き直って抱きしめてやったら、男は泣きそうな声で何度目かわからない好きって言葉をくれた。


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適当。
中忍は常にけんか腰で恋愛してるといいと思います。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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