飢えと渇きを癒すもの(適当)


岩の隙間から湧き出る水を掬い取り飲み干した。
水辺の気配さえないところを身を隠しながら移動し続けて、随分と疲弊していたらしい。渇いた喉をやっと潤せたのはありがたい。
だが。
「参ったねぇ」
帰還するのにこうも手間取るとは思わなかった。
奇襲につぐ奇襲で、一人ひとりはたいしたことない相手でも、その数の多さのせいで消耗してしまった。
里の看板がわりに使われることには同意しているが、いい加減どうにかならないものだろうか。
といっても、自分以外に分かりやすく名を売れる忍など、そういないのも分かっているのだが。
空腹は気にならないにしても、いい加減なにか口に入れないとまずいだろう。
体力が尽きた所で襲われたら、普段通りに片付けられる自信はない。今の状態では中忍並みの戦いしか出来ないかもしれないのだ。
とはいえ、とっくの昔に兵糧丸も使い果たした。
救援を呼ぼうにも、チャクラの心もとなさを思うと、先にどこか身を隠せる場所を探すほうが先だろう。
死ぬわけにはいかないのだ。今はまだ。 里は完全には立ち直っていない。そして里を支えるためには…俺のようなわかりやすい強者が必要だ。
「流石に、疲れるよねぇ?」
それなりに頼りになる後輩はいるが、まだまだつめが甘い所がある。
あと、せめてもう少しだけ。
後輩に後を任せられるようになるまでは、終わるつもりはなかった。
これくらいのことは日常茶飯事だが、今のように強く終わりを意識してしまうのは、やはり疲れているせいだろうか。
湧き水の側に生い茂る木々に背を預け、少しの間だけ体を休めることにした。
「あー…腹減った、かな…」
ぼんやりと呟いた台詞に返事などあるはずもなく、休息を求めていた体は、すぐに眠りの中に沈んでいった。
*****
「大丈夫ですか!?」
揺さぶられて目覚めた。
見覚えのない顔だ。面で狭められた視界いっぱいに心配そうな顔が広がっている。
「あー…そうね。怪我とかはない。食べ物持ってる?」
そう答えたのは、男が木の葉の額宛をしていたのと…それからドンくさいくせに俺の目を覚まさずに近寄ってこれたからだ。
気配はむしろあからさまなのに、穏やかなチャクラは心地いい。
「た、食べ物!あ、握り飯なら!」
兵糧丸か、干し肉くらい持っているだろうと思っていたら、にぎりめし。
それも律儀に何個かずつ笹の葉でくるんである。
何を確かめているのかと思えば、「しゃけ…?こんぶよりうめぼしかなぁ…?」などと呟いていて、思わず吹き出してしまった。
「アンタ、豆だねぇ?」
「え?あ!そ、そうですか?とりあえずしゃけ!どうぞ!」
差し出された握り飯を受け取るなり、くるっと後ろを向かれた。
「見てませんから!あ、でも足りなかったら梅干とこんぶもあります!」
「ありがと」
さっさと包みを開き面をずらして頬張った。なかなか美味い。…それから心配そうなチャクラを垂れ流しながら、必死に視線をそらしている男もなんというか…味がある。
やはり大分空腹だったのか、気づけば3個あった握り飯を全部平らげていた。
「ごちそうさま」
そう告げると男が恐る恐るといった風にやっとこちらに視線を向けてきた。
「あの、…大丈夫ですか?」
面がもどっているのを確認しているらしい。警戒心旺盛な小動物のような素振りに、また笑いがこみ上げてきたが今度こそこらえた。
「ん。ありがと。任務中でしょ?邪魔してごめんね?」
チャクラはまだもどりそうにないが、腹にものが入ったおかげで大分体が動く。
少し休めば、恐らく里に帰れるだろう。
「いえ!俺、帰還するつもりで…!俺の飯の食いっぷりが気に入ったって、依頼人がにぎりめしいっぱいくれたので、まだあるんです。食べてください!」
男は随分とお人よしのようだ。…思わずからかいたくなってきた。
「じゃ、もっと食べたいものがあるんだけど」
「え?あ、兵糧丸と…あと飴玉くらいしか…」
しょんぼりを眉を下げて、悲しそうな顔をしている。
そのうなじに手をかけて、そっと面をずらすと、あわてて男が目を閉じた。
「あーあ。…冗談にできなくなりそう」
「え…んん…っ!?」
キスを強請っているようにも見えるその姿に、少しからかってやるだけのつもりが、ついついわれを忘れて貪っていた。
「ふ…ごちそうさま」
「ふぇ?え?な、なん…?」
事態を把握していないらしい男は、顔のど真ん中をまたぐように走る鼻傷まで真っ赤に染めて、へたり込んでいる。
何をやってるんだかと思わないでもなかったが、唐突に湧き上がった衝動に任せて、最後までしてしまいたくなりそうだ。
「ま、そこまでは流石に、ね?」
一応恩人だ。…俺と同い年くらいに見える割には、そういう方面の経験はなさそうだし、これ以上は酷だろう。
「え?あ…?」
とっさに立ち上がろうとして、男がぐらりと体を傾けた。
「腰抜けちゃったの?」
抱きとめた体は温かい。…男に触れた所が心地よくて、服を着たままでこれなら、直接触れたらどんなにか気持ち良いだろう。
すんっと匂いをかいで、頬を摺り寄せると、やっと正気づいたのか男が暴れだした。
「わー!?え、なんですか!?どうしちゃったんですか!?俺は食っても美味くないです!」
その反応がかわいくて、そうやって暴れるくせにやはりまだ腰が抜けたままなのもいとおしく思った。
「なんか、惚れちゃったみたい?」
「へ?」
「ね、お礼に送るね?ちゃんとつかまってて?」
「え?え?うわっ!」
担ぎ上げた体は、まだ育ちきっていない印象なのにそこそこ重みがあって、それなりに鍛えているのが分かる。
どの程度なのかは帰ってから確かめれば良いだろう。
「これ、頂戴っていってみようっと」
「な、なん…ひぃ!?」
全力で駆け出した俺に目を回したらしい男が、ぎゅっとしがみついてきてくれた。
そうだ。これを、この男がもらえるなら、もうちょっとがんばってやってもいい。
…この男が俺の帰る場所になるのなら。
浮き足立つ心のままに足を速めた。
どうやら、俺の人生、まだまだ捨てたもんじゃないらしいと思いながら。


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適当。
帰ってから報告がてらこれ頂戴なんて言い出して、中忍に怒られて、三代目に驚かれて、気づいたら居候までは同意させられてそうな中忍がいたとかいないとか…。
ではではー!なにかご意見ご感想等ございますれば御気軽にお知らせくださいませ!

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