気の長い話17(適当)


これの続き。



能天気な上忍師がふらふらと単独任務に出かけて行ったと思ったら、今日になっていきなり道端を歩く俺に声をかけてきた。
「あ!カカシ君!最近どう?楽しい?うみのさん、結構でれでれしてるよね!」
任務帰りだって言うのに、疲れた様子なんて欠片も見られない。
ま、この人なら当然か。Sランク任務だってさくさくこなしちゃう人だもんね?
…それに、これは多分一応心配してくれてるんだと思う。
あの日うみのさんとイルカと手をつないで家に帰ったら、すごく複雑そうな顔をしたイルカのお母さんが待っていた。
イルカを見て心の底から安堵の表情を浮かべて、それから俺には…溜息をよこしてきたその人は、今まで見た事がないくらい鋭い殺気を隠そうとしなかった。
それも当然だ。一人息子を誘拐されたも同然なんだから。
それなのにさっさと許してしまったうみのさんの方が、俺からすれば変わっている。
そして、うみのさんがにかっと笑って、「もう大丈夫だ」って言った途端、泣きそうな顔で笑った奥さんも、ちょっと変わってると思うけど。
…正直ちょっとうらやましかったのは秘密だ。
ちょっと所でなく、奥さんに先生が何をしたのかは気になったけど、それからは、本当に驚く位何もかも上手く行っていると思う。
うみのさんは時々すごく悲しそうな顔で俺を見るし、奥さんは時々すごく怖い気配垂れ流しながら能面みたいに笑ってたりもするけど、イルカが俺をすごくすごく大事にしてくれる。
勝手に出かけるのはダメだって言われてから、何故か頻繁にうみのさんの家に呼ばれるようになったのも不思議だ。
一緒に遊んで、一緒にご飯食べて、一緒にお風呂入って寝る。
それだけで任務でどんなに疲れていても、幸せな気分になれた。
ま、お風呂には何故か奥さんが勧めるから必ずうみのさんも一緒に入るし、子ども部屋のベッドで一緒に寝てると、夜中に何度か奥さんが見にきたりするから、警戒はされてるってわかるけど。
…先生、なにかしたんだろうなぁ…。正直に楽しいなんて言っても大丈夫だろうか。
ま、当たり障りなく適当に誤魔化すなんて、この人に通じるわけないけど。
「…楽しいです。イルカと一緒にいられるし、一緒に遊んで、一緒にご飯食べて…あ、でも最近うみのさんちにいく度に、よくてんぷらが出ますけど」
出されたものは食べるけど、俺はてんぷらが苦手だ。
父さんもダメだったけど、油っこいのと、それからいまいちおかずって感じがしないんだよね…。
ちょっと地味に辛かったから、何の気なしにそう口にしたら、先生は楽しそうに笑った。
「ん。そこら辺が落としどころかなって!」
…それを聞いて理解した。
黒幕はまたアンタか…!
「…そうですか。じゃ、先生のことも色々伝えておきますね?」
物理的な弱点も精神的な弱点も殆どない人だけど、俺以上にたった一人に執着していると思う。
狙ってくる連中は後を絶たないけど、ソイツらの末路は大抵悲惨だ。
叩きのめすなんて表現じゃすまない。すりつぶすとかそういう感じだった。
そこはうみのさんの奥さんも知ってるだろうけど…先生の恋人の好物とかは知らないはず。
甘いものとらーめんが好きなあの人の情報を流せば、奥さんも気付くはずだ。
多分、俺に対して以上に、先生に対して怒ってるんだろうから、多分俺と同じ結論に至るだろう。
…あの奥さんと天然の塊みたいな先生の恋人が仲良くなっちゃったら、嫉妬するなんてもんじゃないに違いない。
「んー?…変なこと言ったら恥ずかしいから言わないでね?」
「はい」
ふわりと漂った殺気に、相変わらずの見境のなさを感じてほっとした。
師匠がこれで、父さんも母さんしか見えてないような人だったし、うみのさんもその奥さんもお互いに夢中だ。
俺だけがおかしいって訳じゃなさそうだよね。
「じゃ!元気でがんばるんだよ!結婚式には俺も呼んでね!」
「えーっと。はい!」
いつかはそういう日が来るといいな…。
この分だと先生が里のトップまで上り詰める日は近そうだし。
まあそれはそれで色々心配でもあるけど、何とかなる気がした。
イルカが、側にいてくれるから。
「あ、明日の任務、がんばってね!婚約者鍛えようって奥さんもがんばってるから!」
「はい!」
任務のランクが急に上がったのはそのせいか。一回あまりにもずたぼろだった所をイルカにみつかって泣かれてからは、多少落ち着いたけど。
幸せですごく苦しくて、だからこれまで以上に強くなろうと思った。
「先生。ありがとうございました。俺はもう逃げません」
手を振る俺に笑顔で返して、あっという間に消えた先生は相変わらずすぎるほど相変わらずだ。
入れ替わりのように近づいてくる気配に、きっと俺より早く気付いたんだろう。
「あ!カカシー!おかえりなさい!」
「ただいま!イルカ!」
抱きつくみたいにして俺を出迎えてくれるイルカと、今日もいっしょに家に帰る。
最近じゃ殆ど住んでるみたいな状態だ。
遠慮する俺にうみのさんが怒るせいで、奥さんもなにもいえないみたいだし、ある意味ラッキーなこの状況。上手く利用して色々なんとかしちゃいたい。今は無理でもいつかは。
「今日の晩御飯はてんぷらうどんだって!」
「そっか、あったまりそうだね!」
「あのさ!てんぷら!俺が作るから、いっぱい食べてね!」
「…うん」
こうきたか…!ほんっと早めに手を打たないとね…!
打てる策を考え始めた俺の手を、イルカが握ってくれた。
「早く帰ろうな!うちに!」
「…うん!」
この手がある限り戦える。きっとこの先もずっと。
まだまだ全部を手に入れる日は先だけど、絶対に諦めない。
なにも知るはずもないイルカの笑顔に密かにそう誓って、俺は足を速めたのだった。
…二人で過ごす時間を少しでも長くするために。


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さいごー!終わったー!ながかった!
…ニーズがちょっとでもありますように…!
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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