気の長い話14(適当)


これの続き。



隠れ家を後にしてすぐに、その人影は見つかった。
「いた…!父ちゃんだ!」
何の痕跡も残さなかったのに、かなり近くにまで探りに来ていたらしい。
地形か、それとも野生の勘か…流石うみのさんだ。
とにかく、ターゲットは見つかった。これで計画を実行に移すことができる。
「ん。…じゃ、いい?」
「うん!待ってて!」
イルカは真剣な顔でコクンと頷いて、まっすぐにうみのさんのところまで走っていく。
その腕を掴んで止めたくなる程度には不安だけど、それを押しとどめて様子を観察できる程度には冷静だ。
「イルカ…!こらぁ!危ないから勝手にお出かけしたらダメだといつも言ってるだろう!帰るぞ!カカシ君はどこだ!?」
頭ごなしに怒っているようにみえるけど、あれは多分不安の裏返しだ。
すごくすごく子煩悩な人だと知っているから俺はわかるけど、あれじゃイルカは辛いだろう。
作戦なんかなくても泣いてしまっていたかも知れない。
「と、父ちゃんのばかぁ…!カカシが、カカシが…!」
案の定すぐに瞳を潤ませて、ぽろぽろと涙を零している。あれは多分演技なんかじゃなく本気だ。
側にいたら俺が全部舐めとってあげられるのに。
こんなに近くにいるのに触れられない距離がもどかしい。さっきまであんなにくっついていられた分、隣の隙間が大きすぎる。
でも、今はダメだ。もう少しだけタイミングを計らないと。
必死で堪えようとしたのに…そんな自制は長くはもたなかった。
「なに!?イルカ何があったか父ちゃんに全部説明しなさい!」
取り乱したうみのさんがイルカに詰め寄って、その腕を掴もうとしたのをみたら、もうだめだった。
「うみのさん…!イルカを責めないで下さい!」
「カカシ君…!無事か!一体何が…!?」
俺が背後に庇ったイルカごと、うみのさんが手を伸ばしてきた。
何が起こってるかわからなくて、だからきっと心配してくれているだけなのに、その手がイルカを連れて行ってしまいそうで。
…思わずぎゅっと手を握ったのと、イルカが俺の顔を見て泣きながら食って掛かったのは殆ど同じタイミングだった。
「父ちゃんなんか嫌いだ!なんでカカシを虐めるの?」
まっすぐに睨みつけるわが子に、うみのさんはあからさまに動揺していた。
これを狙ったとは言え、ここまでショックを受けられると流石にちょっとかわいそうになる。
親馬鹿だもんね。うみのさんは。
…俺もこんな風にぶつかっていっていれば、何かが変わっただろうか。
「うっ!それはその!別にいじめてなんかいないぞ!」
都合が悪くなると視線をそらして誤魔化そうとする所は、うみのさんに似たのかもしれない。
お陰で動きやすいけど、やっぱり多少良心が痛む。
…なにより、イルカを傷つけてしまっていることが辛い。こんな風に泣かれると、俺まで苦しくなる。
「いいんだ、イルカ。俺、うみのさんにも嫌われちゃっただけだから」
作戦を実行しながらイルカの頭を優しく撫でてあげた。
泣かないで欲しい。俺のせいでなんて絶対に。
少なくとも父さんみたいな理由では、絶対に泣かせないから、もっと笑っていて欲しい。
「カカシ…!」
「カカシ君!それはちが…」
まるで自分のことのように苦しげな顔をする。やっぱりこの二人は親子だ。
外見ばかり似た俺と父さんと違って、どこまでも良く似ている。
「俺なんかと遊ばせちゃダメだと思ったんだよきっと。だって、俺は…負け犬の息子で汚れてるから」
今までも何度も言われてきた台詞だ。
この人たちからは一度も言われたことがなかっただけで、もうとっくに聞きなれている。
今更動揺することもない台詞だけど、うみのさんにも…それからイルカにも覿面効果があったようだ。
「カカシは汚れてなんかいない!そんな、そんな父ちゃんなんか…だいっきらいだ!」
お父さんには素直に思ったことを言って、できそうなら泣いちゃってもいいってお願いしたけど、きっ!とうみのさんを睨みつけるイルカは、そんなこと多分もうすっかり覚えていないだろう。
ずっと父さんを見ていることしかできなかった俺とは違う。イルカは俺のために自分の父親に真剣に向き合ってくれている。
確かに嬉しい。眩暈がしそうなくらいに。
でもそれは、本当に正しいんだろうか。俺が関わって、そのせいで二人がどうにかなってしまうのは。
正しい選択なんて分からない。今更戻れない。
だってこの賭けに負けても、俺はイルカを諦められない。
…父さん、俺はあなたに何を言えばよかったんだろう。俺はまた、何かを間違えたんだろうか。
「イ、イルカ…!第一カカシ君も!それは違う!」
「いいんです。暗部には上忍になってからって言われてたけど、俺、行きます。そうすればここに戻って来ないで済むかもしれないし」
可能性としてはありうる話だ。
…実力主義の連中ばかりらしい彼らが、いきなり放り込まれた未熟な白い牙の息子を歓迎する訳もない。
先生が止めたら分からないけどね。あの人は敵も多いけど、神様みたいに信仰してる連中も多いから。
もしそうなっても意地でも生き抜いてやるつもりだけど、どっちにしろ、あの闇に飛び込んだら、そう簡単に光の中へは戻れない。
でも、それで強くなれるなら、それもいいかもしれない。
どっちにしろこの仄暗い執着が消えることはないだろうから、今みたいにイルカを傷つけて追い詰めてしまうくらいなら…もっともっと強くなって、邪魔なもの全てを叩き潰せるくらいになってからでもきっと遅くない。
…たとえ今どんなに辛くても。
「そんなの!ダメ!ぜーったいダメだかんな!だって、カカシは…!カカシは俺の…!」
イルカが飛びつくように俺を抱きしめてくれた。
零れ落ちる雫が宝石みたいに綺麗だ。
その全部を掬い取って飲み下してしまいたい。
イルカの優しさを、その心を、一欠片も残さずに自分だけのものにできたらいいのに。
「イルカ…!」
ぎゅうっと抱きしめ返して、やっぱり離れられないと思った。
離れたら生きていけない。でもこんな風に悲しませるくらいなら、死んだ方がましだ。
いっその事このまま逃げてしまおうか。
イルカが危険な目に遭うなんて、そんなことできるわけもないけど。
「二人とも、こっちに来なさい」
それはとても静かな声だった。
怒りでも苛立ちでもなく、何かを決意したような声。
…俺は賭けに負けたのかもしれない。
俺まですぅっと頭に上っていた血が下がった気がした。
「やだ!父ちゃんカカシ虐めるじゃん!」
「虐め…!そんなことしないぞ!父ちゃんはただ…!」
「行くよ。イルカ…今までありがとう」
負けは負けだ。
引き離されたらまた一緒にいられるようにがんばればいい。
…その前に狂うほど、きっと俺は弱くないはずだ。
「だ、だめー!」
イルカの悲鳴は俺の胸に引き裂くような痛みをくれたけど、俺の足は止まらなかった。


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というわけで続気になってしまったんですが予定ではあと数回でおわるはずなんだけどどうでしょう?
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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