いびつで、でも幸せな(適当)



「ごはん」
「うん。ちょっとまっててくれな?」
「はい」
かわいいなぁ。…と思ってしまう。
うんって言わなかったのは、返事ははいだぞって教えたからだし、ちゃんとちゃぶ台だって吹いてくれている。
いや図体は十分でっかいといか俺よりホンのすこーしだけだが背は高いし目方は…くっそう!俺だって別に標準的な体重で…!
まあうん。それは今はおいといて。
なんだろうなぁ。この人。勝手に居座るのはどうかとは思うんだが。
むしろ最近ではこの人がいないと寂しくてやりきれないほどになっている俺のほうこそどうかしてる。
「お味噌汁は?」
「ナスだぞー?」
「…そ?」
隠しきれてない。隠しきれてないぞ。
顔半分以上隠れてるのに、にまっと笑ったのが分かる。
こうなるとさ、やっぱり美味いもの食わせてやりたくなるじゃないか。
「お運び」
「ああ、そうだな。ほら、焼き魚もうちょっとで焼けるから、そうしたらちゃぶ台に運んでくれ。もう拭いてあるよな?」
「うん」
こくりと頷いて、網の上でジュウジュウと音を立てている魚に熱い視線を送っている。
なんとなく今日は来るかもしれないと思ったから、好物をそろえておいてよかった。俺の勘も中々捨てたもんじゃないな。
ああそれにしても…この振る舞いも、態度も、とても普段のそれじゃない。初めてやってきたときはてっきり幻術でも食らったんだろうと慌てたものだ。
玄関空けたら上忍が抱きついてきたんだぞ?思わず叫びそうになったのに冷静に口をふさがれて、このまま死ぬかとすら思った。
そのあとぎゅうぎゅうしがみついてきて、イルカとかいきなり呼び捨てにしてくるし、ついでに泣き出すし、そうなると思わず慰めて…で、今に至る。
火影様に報告すべきなのかもしれない。本当は。
ただやっと泣き止んだら膝に懐いて寝てしまったのを見ると、それを他人には知られたくないだろうということも頭をよぎって、正気になったら説明すればいいかとつい。
朝になったらいなくなってたから、むしろ俺のほうが術にでも掛かっているのかと思ったほどだ。
シーツに残るぬくもりと、しがみつかれた時残った指の痕なんかで、どうやらそうじゃないことはわかったんだが。
…それ以来、何かがあって弱ってくるとすぐに俺の家に来るようになった。
まるで子どもみたいな態度に敬語を使うのもばからしくなり、気付けばこうしてじゃれあいながら飯を食うのが当たり前になってしまっている。
「できたぞー」
「運ぶ」
「熱いから気をつけてな」
「うん」
素直だ。これで俺と同じくらいのサイズじゃなきゃ、多分もっとねっこかわいがりしてそりゃもう激しくかわいがり倒していただろう。
本当は良くないことなのかもしれない。こうしてこの人を構い倒すのは。
…手放せなくなる前に、手を打つべきなのはわかってるんだよ。だってこの人は多分正気じゃないんだから。
「お代わりあるからな」
「お味噌汁も?」
「分かってるって!たっぷりあるから心配すんな」
「うん」
あ、口布下げた。笑ってるのがよく分かってなんとなくうきうきする。
綺麗な顔してるんだよなぁ。外で会う時より目つき悪くないし。
言い争ったときなんてゴミを見るみたいな目で見てきたくせに、今はもう別人と言ってイイほど素直でかわいくて懐っこくて、それからテレでもある。
「たくさん食えよ」
「うん」
それにしても食卓が茶色い。いや、俺は好きなんだがこういうの。まあラーメンのほうが好きってのは否定しないけどな?
近所の農家のおばちゃんから貰ったなすがあるから、ついつい味噌汁以外にも煮浸しとかつくっちまうんだよな。そう大して料理が得意なわけでもないからついつい茶色い食事が出来上がる。彩の乏しい飯は美味いんだがこの人にはかわいそうだろうか。
味覚はあんまり子どもっぽくないけど、子どもみたいな扱いは喜ぶから、いっそお子様ランチにでも挑戦してみようか。これでもトラップで鍛えた手先は結構器用な方だ。料理本でも読めばなんとかなるかもしれない。
「イルカ」
「ん?なんだどうした?」
いかんいかん。ぼんやりしてた。木の葉マークの旗どうやって作ろうとか、確かああいうものにはおもちゃがついていたがこの人はどんなものがいいだろうとか…考え始めると止まらなくなるのは悪い癖だ。
「お泊りしたい」
「おう。新しいパジャマ買っといたから、忍服は脱いだら洗濯機な」
最近頻繁にやってくるからつい買ってしまったのがどうやら役に立ちそうだ。体格がほぼ同じとはいえ、忍服で寝かせるのは少しばかり味気ないし…それになにしろ寝心地がいいとはいいがたい。
一人ならパンツ一丁でもかまわないだろうが、この子…もとい、この上忍がいるなら俺もパジャマか浴衣でも引っ掛けて寝よう。くっついてこられて暑いのがなんだが、間近でみる顔はあどけなくて癒されるしな。
「イルカ」
「なんだ?どうした?」
頭をくしゃくしゃ撫でると、ふわっと笑った。ああくそ!かわいいなぁ!何でこの人上忍なんだろう。ずっとここにいればいいのに。
そうしたら…寂しい思いなんてさせないのに。
こんな風になっちゃうくらい辛いなら、俺がその分いくらでもかわいがり倒してやるとも。
…いや、駄目だって。この人は上忍で、多分ちょっと疲れちまって、俺に甘えてるだけなんだから。
元気になったら、きっといつか出て行ってしまう。
「…ねぇ。もういいよね?」
何で嬉しそうなんだ。俺はこんなにも落ち込んでいるのに。
って、八つ当たりだな。いかんいかん。どうせならここでできるだけ快適に過ごして欲しいもんな。
「ん?ああ、風呂入るのか?湧いてるぞ」
「そうね。お風呂入ってからのが」
「そうだな!ビール…っと。まあ先に入って来い。食器は下げとけよ?」
「はーい」
足音も立てずにたんすの一部にいつのまにかできてしまったカカシコーナーから下着と新品のパジャマをとりに行って、しかもよほど気に入ったのか持ってくるくる回っていた。
いいんだ。これで。幸せでいてくれるなら俺はそれ以上望まない。
…やっぱり、明日になったら火影様に相談に行こう。俺ばっかり楽しくても意味がない。この人の傷を本当の意味で癒せる誰かを…俺みたいに寂しさを埋めるためにこの人を欲しがってしまわない誰かを見つけてもらわなくては。
「捕まえた獲物は、早く食べてしまわないとね」
「ん?なんだそりゃ。ほらいいからいいから。行った行った!」
「はぁい」
この上なく楽しそうで…それから妙な甘さを含んだ猫なで声で、うちの子…もといちょっと壊れた上忍はたけカカシは風呂場に消えていった。
どうせカラスの行水だろうから、さっさと食器片付けて俺も風呂に入ろう。
…最後かもしれないんだし、ゆっくり一緒に過ごしたい。
「あーあ…」
どうも、貧乏くじばっかり引くな。俺は。
かちゃかちゃと音を立てる食器たち相手に、思わずため息をついた。
*****
「イルカ」
パジャマはよく似合ってる。袖を引く姿にちょっとどころでなくときめいた。
あのまま二親が生きていて、弟ができていたらこんな感じだっただろうか。出来れば妹も欲しかったのだけれども、家族は一杯いた方が楽しいし。
「お?上がったか?じゃ、俺も入ってくるから麦茶でも飲んでろ」
「ん」
なんだ?さっきから変だぞ?ご機嫌そうなのは結構なことだが、まとう空気が重いというか、重いのに甘いというか。
「パジャマパジャマと…うわ!」
さっさと風呂に入ろうとたんすにかがみこんだ途端、背後にめっとりと張り付かれてしまった。
「匂い、そのままのがいい」
「へ?おいおい。汗臭いってことか?」
「そうね。…ねぇ。俺と寝て?」
「そりゃかまわんが、風呂に入ってくるから…お、おい?」
持ち上げられた。落とされた。無造作にベッドの上に。
無意識に子どもだと思いこんでいたから、ひょいひょい持ち上げられてしまったのが衝撃的で、思わず目を丸くして見返してしまった。
相変わらず笑顔なんだが…なんだろう。この本脳的な恐怖。自分より強い生き物に腹をさらしているような…。
覆いかぶさってこられると、どんなに子ども染みた振る舞いをしていても大人の男だ。大きいし獲物を押さえる術にも長けているし…どこか恐ろしい。
「ねぇ。好き」
「ん?なんだ甘えただなぁ?俺も好きだよ」
かわいがり倒して俺の子にしたいけど、この人の方が年上であることに悩む位には。…外にいるときに取り囲まれている女たちの誰かのモノになるのかと思うと悲しくてやりきれなくなるくらいには。
「ん、ならいいよね?そこ大事だと思うの」
「へ?ま、まあそうか?うん。そうだなぁ。大事って気持ちは嬉しいし…大切だよな?」
よくわからないが俺はこのイキモノを愛おしく思っている。それだけは事実だ。
幸せにしたい。幸せになってほしい。できうることなら自分の見えるところにいてくれたらもっと嬉しいんだが…多分それはきっと、とてつもない我侭だろうから諦めなければ。
「いただきます」
普段言わせるのに苦労する言葉をさらっというから、寝る前にモノを食うのは禁止だというつもりが、口が開かない。しかも呼吸すらも怪しい。
口を塞いでいるものはやわらかく湿っていて熱い。薄くて色も淡いそれをいつも冷たそうだと思っていたのに。
「んぐ!んー!」
「全部食ったら俺のモノだし、そうじゃなくてもま、俺のモノなんだけどさ、盗られちゃうの困るじゃない?そいつを殺さなきゃいけなくなる」
「ふぇ?な、にを?」
よくわからない。理解できない。えーっと。俺はどうしたらいいんだ?
「うん。いいから俺だけみてなさい」
普段はたよりっけなくて守ってあげなきゃと思わされてきた相手に、妙にえらそうに言うから虚を突かれた。
「え?え?あっ!」
そうして気付けばあらぬところにとんでもないものがつっこまれていて、それこそこの人以外を見る余裕なんてないくらい喘がされていた。
*****
…なんなんだろう。この状況は。
「ご飯。今日は俺が作るね?」
「あーうーえー」
いたいっていうかじんじんするっていうかうごけない。このベッドから一歩だって歩くことはおろか、立ち上がることすら出来ないだろう。
そしていまだかつて味わったことのないこの感覚。尻の穴からなんか出てきてるような…!?
洩らすような年じゃないはずだし、そもそも出てきてるというか溢れてきているというか、つまりはこれは昨日から延々と注ぎ込まれ続けたアレか。
「お風呂はあとで一緒にはいろ?洗ってあげる」
「ふ、ろ…」
風呂は入りたいな。こんなにべたべたなまま布団に入っているのは流石に嫌だ。なにでべたべたになってるのかについては考えるのが恐いが。
「これでもう俺の」
にっこーっと音でも立てそうなくらい嬉しそうに言うから、うっかりなにもかもどうでもいいような気がしてくる。
「う、うーん!?」
まずいよな。ああまずい。多分きっと。
でもどうしよう。幸せなんですけど!?
「イルカのごはんもすきだから、また作ってね?」
そういわれて思わず頷いてしまう俺だ。だってかわいいんだぞ!いやでもさっきまでコイツたしかにケダモノ…うぅ!?
「どうしたらいいんだ…?」
悩みすぎて言葉にでていたらしい。
幼子のように構い倒していた男が、にやりと笑った。
「そんなの、俺のモノになったんだから、ずっとそばにいればいいんじゃない?」

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適当。
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