毛並み2(適当)



誕生日だってことを忘れているらしいことには気付いていた。
「えへへ…」
にへらーっと間抜けな顔で笑ってむにゅむにゅいいながらくっついてくる。
相変わらずのアホっぷりだ。
思わずこのアホ面晒したままわが世の春を謳歌している男を、思いっきりベッドから蹴り落としてやりたくなったが、そんなことをしても猫のようにひらりとかわして抱きついてくるのが関の山だろう。残り少ない体力を無駄に消費するわけには行かないので諦めてやった。
フラフラ出歩いて壁にでもぶつかっていそうな暢気さとぼんやりぶりはこの男の素なんだろうが、獣のような鋭さと獰猛さと狡猾さを兼ね備えていることも知っている。
心配なんかしなくてもいいくらいには強いってことも。
でも、アホだ。
「これじゃサンマ買ってこれねぇだろうが…」
ケーキは既に買いこんである。ちょっとした嫌味もこめて、一番デカイチョコレートのプレートにこれまたでっかい字でお誕生日おめでとうってのと、カカシちゃんへってのも書き込んでもらった。
事情を知らないアルバイトの女性店員が、息子さんですかなんて聞いてきて、こっちは事情を良く知っているというか、男の勘違いに満ちた嫉妬の被害にあったことのある店主の方は盛大に噴出していた。
息子なんてかわいいもんじゃないですとは言わずに、いいえとだけ返せたのは奇跡だったと思う。歪に歪んだ笑顔がショーケースに映りこんでいたとしても、だ。
大恥かいてまで用意したプレゼントは、この分じゃ日の目を見ずに終わってしまうんじゃないだろうか。
「くそ。もったいねぇ…!」
こうなることをある意味予期していて、だからこそせめてケーキだけはと確保しておいたのは良かったのか悪かったのか。
誕生日の前日に帰ってきた男は相変わらずの身勝手さを発揮して、帰ってくるなりそりゃもう酷い目に…。
大体コイツの顔というか、目がな。かまってーって顔中にかいたみたいに甘えてくるからつい油断するんだ。
子犬みたいに見えても、中身は獰猛なケダモノだということを忘れてしまいがちだ。
それでまた、構ってやると幸せですーって顔でにへらにへら頬を緩ませるもんだから、なんっつーかな。不憫になるんだよなぁ。
同性の、体格も似たようなゴツイ野郎相手に構われるのが、そんなに嬉しいのかアンタはって、普通思うだろ?
今日だって誕生日も祝ってやろうと思ったのに、すっかり忘れて構ってもらえて嬉しいーって顔で寝てる。しかもぴったり隙間無くひっついて。ちなみに下手に動くとそのときだけ無駄に上忍の本気を発揮して布団に引きずり込まれるから、注意が必要だ。
「ったく。しょうがねぇなぁ」
もう昼も大分過ぎた頃だろう。朝目覚めてすぐ挑まれて、うっかりうとうとしちまったからな。
急な任務が入ることが多いから、それでも間に合うようにしっかり用意したのってのに。まあ新鮮さが命の生魚だからと、その調達を後回しにしたのは俺のミスかもしれない。
起きたらサンマ買って来いとでも言ってみるか?…でもそれじゃコイツの祝いなのにおかしいしな。
「うぅ…」
とりあえず、起きられるかどうかすら疑問なこの状況に、呻き声を零したら、飼い主よりずっと有能な忍犬たちが何故か雁首揃えて水を持ってきた。
「飲んでくれ」
「買い物とかあるか?」
「カカシは多分まだ起きないから、その前に風呂とか入るなら用意するぜ」
…有能だ。まあ俺が動けないことを見越した上で、更に犬たちがいれば怒れないことを知っての手はずだろうが、この際構うものか。
「すまん…ありがとな。ええと、その、風呂もなんだが、その、サンマを」
「承知。ブルと拙者は買い物じゃな」
せっせと買い物袋と首から唐草模様のがま口まで提げている。
「じゃ、俺は風呂な」
ひらりと風呂場に消えた尻尾を見送って、あの手でどうやって洗うんだろうという純粋な疑問もそこそこに、次の犬が声を掛けてくる。
「カカシの荷物まとめておいてやったぜ」
乱暴に脱ぎ捨てられていた服が消えていて、装備品はきちんと揃えられて部屋の隅においてある。
「ありがとう…」
完璧だ。飼い主が最低なのをのぞけば。
情け無くも涙を滲ませた俺を、犬たちが慰めるように肉球を触らせてくれたのが救いだろうか。
こうしてなんだかんだと犬たちの世話になっている間に、誕生日の準備はそこそこ整った。
買い物は頼めても料理は流石に頼めない。一応祝い事なんだし。犬たちは口々に主人の乱行を詫びてきて、徐々に祝ってやる気分も失せてきたがここまで着たら引き返せないもんな。
「おい!起きろ!」
「えへ?うーん。あ、いい匂い!」
人の尻をもみながら言う台詞かと怒鳴りつけたいのを堪え、寝ぎたない男を布団から引っ張り出してやった。
ついでに髪の毛もたっぷりなでておく。相変わらず手触りだけは最高だ。まあ中身は色々と…。
「たんじょうび?お祝い…カカシちゃん…?あ、俺か」
寝ぼけ眼がきらきら輝くのをみられたんだから、やった甲斐があったってもんだろう。多分。
「プレゼントはイルカ先生ですよね!」
そう可愛くない台詞を吐いた男の頭に拳骨を落としつつ…来年もこうして祝えることを、いや、もうちょっと平穏な誕生日になることを祈ったのだった。



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適当。
今年も来年もその次もずっと先も、銀髪上忍の頭はもさもさです。
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