けだものびより(適当)



出来るだけ普段通りに。
何を考えてるかなんて絶対に気付かれないように今日も笑う。
「お疲れ様でした」
「ん。ありがと」
終わった。後は何も考えないようにして速やかに普段通りに過ごせばいい。
なにもかもいつも通りに。
目の前にいる獲物を食い殺す妄想を押し殺して、ただひたすら普段通りにしていれば、いつかは終わるはずだ。
俺か、それとも目の前の男か、どちらかが死ねばきっと。
忍の身で長生きなど望むべくもない。ましてやこれだけ情勢が不安定なら、さほど遠くはない未来に、俺かこの人は死ぬだろう。
できうるならば、俺の中の獣が暴れだす前に、死ねたらいいんだが。
自死はできない。この体は、大切な人たちを失ってからずっと、つま先から頭の天辺まで里のものだから。
でも、そろそろ限界だ。
ああどうしよう?この人を食ってしまいたくて仕方がない。
夜の闇にまぎれて嘆きの代わりに吐き出した吐息が白く煙って消えていく。
この思いもこうして簡単に何もなかったみたいに消えてくれればいいのに。
執着は浅いようでいて深くて、本当に大事なモノはこうやってどうしても諦める事が出来ない。
諦め続けることを強いられて、それが当たり前であったはずなのに、いつから俺はこんなにも貪欲になってしまったんだろう。
「カカシさん」
「イルカ先生」
偶然にしてもできすぎている。
どうしようか。
男はみんな狼だなんて月並みな言葉が頭を過ぎる。
それにしてもなんておいしそうなんだろう。
お互い無言で見詰め合って、合わせないようにしていた視線がふいに絡み合って、そうして気付いてしまった。
いっしょだ。俺も、この人も。
「ねぇ。お腹が減って仕方がないんです。あなたもですよね」
「ええ。…食いたいモノもきっと一緒です」
笑いあう獣がもつれ合うように地に倒れ、そして。
互いを貪るその瞳に己の獲物の姿を映して、喉笛にその牙をつき立てる。
好きだ好きだという言葉は、どちらからこぼれたものだろうか。
ただ、分かっている事が一つだけある。
もう、俺は死ぬまで飢えることはないだろう。…お互いにこうやって食らい尽くしてしまうだろうから。


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適当。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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