片恋(適当)


「どうだい!選り取り見取りだろ!」
まるで売れ残りの叩き売りだ。
なんだってこんなことになってるんだか知らないが、この女傑はざっくばらんで時にいい加減にみえることもあるが、意外と世話好きであるらしい。
「あの、話が見えないのですが」
失礼を承知で頭を抱えた。
執務机の上に並べられているものの正体は流石に鈍い自分にも分かる。
着飾った女性たちの似姿はそれこそ机の上を覆い隠すほどの量で、確かにこれなら選り取りみどりといえるだろう。
…問題は、自分にとってそれが厄介ごとでしかないということなのだが。
「話に聞いちゃいたがにっぶいねぇ!お前は。いいかい?これはだな…」
「いえ、その、唐突に見合いを勧められる理由を教えていただけませんでしょうか」
告げるつもりのない片恋が成就することはまずないだろうが、今それを捨てられるほどこの重いは軽くない。
いっそ忘れてしまいたいほどなのに、むしろ少しずつ膨れ上がり、押しつぶされそうになっている自分を見かねた…ということは、この人にはまずないだろう。
そもそもこうして執務室に火影の決済の必要な書類を運ぶとき以外、そう大して接触することもないのだから、気付かれるはずもない。
「なんだい?腰が引けてるねぇ?どいつもこいつも!道理で出生率が低いと思ったよ!」
「…あのー?」
「カカシが、あの馬鹿が折角の見合いを蹴ってね!そういやアイツと同年代の忍は独身連中ばっかりだとシズネが言ったもんだから片っ端からくっつけてやろうと思っただけさ!不幸ぶりっ子にいい加減飽きないのかねぇ?」
…要するに、とばっちりを受けたということらしい。
確かにあの人なら見合いなどというものに興味はないだろう。
何もしなくても入れ食いだという話もあるくらいだ。
当の本人はつまみ食いはしない主義だと主張してはいたが、結果的に女の回転が速かったのも事実のようだし、そんな状態でわざわざ里の指定した…背後になにがあるか分からない女になど会いたがらないのも頷ける。
「申し訳ありませんが、私はその」
「なんだい?子守好きの朴念仁だとばっかり思ってたが、女がいたか。それなら無理強いはしないけど、さっさと身を固めて欲しいもんだがね!」
どうやら誤解してもらえたようだ。…それならそれでいい。この人の望むような生産的な関係とやらにはどうあがいてもなれないし、言うつもりもない。
あとはさっさと書類を何とかしてもらって逃げるのが先決だろう。
「申し訳ありません。五代目。そちらの書類の期限が迫っておりまして…」
「なんだって!?ああもう!またここかい!…ほら!印はついたよ!さっさと持ってきな!」
「はい。それでは…え?」
書類を持ったはずの手に、ついでとばかりに絵姿の山がたっぷり入った袋まで握らされていた。
「嘘は良くないぞ?うみの。どれでもいいからじっくりえらんどいで!」
「いえ!ですからその…!」
「色恋でくノ一を誤魔化せると思うんじゃないよ!放っといたらぼさーっとしたまま独り身で死にそうだからね!とっとと自分の子ども作って、たっぷりかわいがりゃいいじゃないか!」
万事休す。 嘘をついたわけじゃないが、確かに恋人などはいない。
だがこれを受け入れれば火影の用意した縁談だ。よほどでない限り逃げられないだろう。
さてどうしたものかと絵姿の山を見つめていると、その視界を遮るものがあった。
「綱手姫。あなたね…。この人にまでちょっかいかけたんですか」
「はん!腰抜け小僧にゃ用はないよ!」
「報告しなくていいなんてすごいこといいますね?」
「ああいえばこういう!全くかわいくないね!とっとと報告しな!カカシ!」
どうやら救世主がきたようだ。ただの中忍には無理強いできても、流石のこの人にはさほどの無理は通すまい。
里切っての凄腕で、稼ぎ頭で…幼い頃から良く知っていると聞いている。情もあるからお互い色々やりにくいなんて複雑そうに言ってたっけ。
「すみません。どうしてもこれは受け取れません」
だが俺の持っていた袋を突っ返してくれたのはいいとして、その中身がおかしい気がする。
受け取れないって言うのは、俺の台詞じゃないか。
「ふぅん?そういうことかい?…だったらなんで白状しなかった」
「ま、俺でも片恋には悩むんですよ?でも脈アリかなぁって。さっき」
「え?え?あのう?」
それでなんで俺を抱きしめるのか聞きたい。今すぐにでも。…いや火影の前でなんてのは勘弁して欲しいけど。
「たしかにそのようだね。まあいい。そっちはそっちで何とかしてやる。…逃がすんじゃないよ!カカシ!」
「言われなくても。…さ、帰りましょ?イルカせんせ」
「え。あの、あ。先日の書類は明日にはお渡しできますので!失礼します!」
なんだかわからないままとりあえず逃げることはできた。…らしい。
引きずり出されるように連れ出されたおかげで腕は痛むが、書類はきっちり回収したし、期限にはなんとかなるだろう。
「イルカせんせ」
問題はこれだ。なんでこうぎゅうぎゅう抱きしめられて、しかも耳元で名前呼ばれなきゃいけないんだ!
「カカカカカカシ先生!?あの、どうしたんですか?」
肌の熱が、鼓動が伝わるほど近くにいる。それを意識させるのは止めて欲しい。
こんなときだってのに反応しだす下半身に気付かれでもしたら、人としても大変なことになるが、それ以前にこの人に知られてしまう。
焦がれたものを与えられて突き放すこともできないのに。
「あのね。えっと、そのですね!あー…くそ!」
「え。はい。あの!?」
おろおろしながら背後に首を回した途端、不穏な言葉が耳に入った。
「…食っちゃいたい」
「は?」
「ま、今すぐってのは流石に無理だってわかってますから。…今日一緒に飯食べませんか?」
飲みに行きませんか。なら良く聞く台詞だ。飯ってのもさほど不自然じゃない。
不自然というか違和感満載なのは、妙にぎらついた瞳の方だ。
なんだ?この人。どうしちまったんだ?
「かまいませんが…」
「じゃ、迎えに行きますから!」
なぜかしっかり手を握られた。これじゃまるでその、恋人のようじゃないか。
…酒ナシでってことは、もしかすると任務でも入ってるのか?
こっちは酔って余計なことを口走らないですみそうだからありがたいが。
「無理しないでくださいね」
心配が口をついて出ただけだったのに、驚くほどその相貌を崩した。
落ち着かないことこの上ない。…やっちまいたいと思ってるなんて、この人は知りもしないだろうけど。
「ん。そーします」
にこやかに去っていく上忍を見送り、俺も書類片手に走り出した。
肌に残る感触に、どうやら今日一日中悩まされてしまいそうだと嘆息して。


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適当。
逆に食われればいいと思いました。代休とって寝オチ_Σ(:|3 」∠ )_
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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