みしらぬひと(適当)



「緊張してる?」
「へ?あ、あぁその、ちょっと」
上忍と差しで飯を食うことになったらそりゃ緊張する。
知り合いとか腐れ縁とかならまだしも、初対面だ。
それもいきなりナンパしてきたというか…偶然相席になっただけだってのに、告白してきたような相手となんだから。
「イルカ先生に会えてよかったなぁ。外食なんてあんまりしないんだけど」
「へ、へー。そうなんですか」
上忍にしちゃ珍しいなぁ。まあ自称だからどこまで信じていいかわからんが、チャクラからして嘘じゃないだろう。
忍なんかやってると命の危険に晒されつづけるせいか元々刹那的なヤツが多いし、階級が上になればなるほど稼ぎが良い分金遣いも荒い連中が多いってのに。
私服らしきものもさほど高そうには見えない。
なんていうか、普通だ。普通すぎて俺でも持ってそうといか、同じようなのを着ているはずなのに、どうしてか相手の方がずっと高級に見えるんだけどな。
顔がいいからだ。多分。
ぱっと見ただけでも、絶対この顔は忘れない。上忍だとわざわざ向こうから名乗ってこなければ、九割方モデルとかその類の職業だと思いこんだだろう。
思わずじろじろ見ると、頬がぽっと赤く染まった。
う、うん。ちょっと色っぽいように見えるけどきっと気のせいだ。
…それにしてもどっからどうみても始めて見た人だと思うのに、どうして通りすがりのしがない中忍の俺なんかに声を掛けてきた挙句、好きだなんて言い出したんだろう。
酔っ払ってるようにも見えないのに。…上忍ってのは大概酔っ払わないけどな。耐性付けすぎてちょっとやそっとじゃ酔わないから、飲んだら死ぬんじゃないかって言うドギツイ酒を飲んでたりする。
「好きです」
まただ。
手を握られてそのまま熱っぽいため息に混ぜ込むように告げられて焦る。
いやいやいや。ホントにどうしちゃったんだこの人。
女と勘違いされるような外見じゃないし、何よりこの人の顔ならよりどりみどりだろうに。
明らかに俺を知っているような言動。…それにしちゃこっちは誰だかわかんねぇんだけどなぁ。誰だよ。受付やってるのにみたことないぞ?この顔。
髪型は…ちょっと似ている人を思い出して噴出しそうになったけど。
あの人のは綺麗な銀髪だ。こんな風につややかな黒髪じゃない。
思わずぼんやりしてしまったが、返事を待っているのか上目遣いで見られると落ち着かない。
そもそもなんで声を掛けられたからと言ってほいほい付いてきちゃったんだ俺は!うっかりものにも程がある。
ごくごく自然に声を掛けられて自然と相席になってて、しかも個室で、その上座った瞬間には告白だ。
なんていうかだな。びっくりして逃げそこなったわけだが、どうしたらいいんだ!
「あああああの!殆どお互いのことを知らないと思うんですが!かかかかかみ!すごいですね!ふわっふわで!」
あの人の髪を思い出す、ちょっと触ってみたくなるふわふわ感がそっくりだ。
混乱のあまり支離滅裂な反応をしたのに少しだけ驚いたのか、瞳が一瞬見開かれた。
え?あれ?なんかみたこと、ある?
「イルカせんせ。もしかして気付いてないの?」
「へ?え?あの?」
誰だよ!名前知ってるよ!綺麗な目だよなぁ。ってそうじゃなくて!
「カカシです」
「わー!」
煙を上げていつも通りの姿になった男は、たしかに良く知っていた。素顔はみたことなかったけど、かわいいかわいい教え子の新しい上司。顔を隠しているせいで、実力があるのに胡散臭い人という印象だったのに、なんだよ!こんな顔してたのか!
…って!それが!なんで!こんなとこで何やってんだ!
知ってる相手だとわかった途端、別の意味で暴れ出す鼓動が騒がしい。
「ああ、やっぱりわかんなかったのね?だから妙に堅苦しい態度だったわけだ」
「あの、その。すみません…!」
穴があったら入りたい。とっさに謝ってみたけど、さっきまでチャクラだって違ってたしわかんねぇよ!
驚きと怒りに満ち溢れていた俺は、そもそもなんでこうなったのか思い出せなくなっていた。
「んー。いいの。他人行儀な先生も新鮮だったし?」
「は、はぁ。そうですか?」
ううういたたまれねぇ!大体なんで里の中で変化してるんだ!いや身を守るためなんだろうけど、そんな状態で告白なんかすんな!ってその前に俺に告白するってどういうことだ!こっちも男だっつーの!
「で、お返事考えてくれます?」
こっちのお酒にから揚げとか揚げ出しとか、〆のらーめんもつけますよーって、なんだそれ。
幸せそうに言うな。…そんな下らない、本当にたいしたことないことで、どうしてそんなに嬉しそうにしてるんだ。
止めてくれ。そういうのは。アンタ上忍だろ?なんでもっとこう…上から目線とかで来られたらすっぱり断る気になれたのに。
「あーはい。そのう。でもあの、俺は男なんですが?」
「知ってます」
にこーっと笑われるとどうにも反応に困る。
そこじゃない。知ってるだろうが確認してんだよ!アンタホモだったのかって!ああもう!
「あのですね。俺は男性とお付き合いする予定はないんですが」
「そうですか。奇遇ですね。俺もです。ま、女もいらないんですが。アナタだけでいいので」
しれっとなんてこといいやがるんだろう。この男は。
「あああああんた!さらっと言うな!そういうのはもうちょっとよく考えてから…!」
思わず説教しかけたのに、全部を言うことは叶わなかった。
…キスされたからだ。
「一生を誓います。いつだってアナタとなら。お返事は一応待つつもりです。待てなくなるまでは」
なんかこうさっきから随分なことをなんでもないように言うのを止めてほしい。
待てなくなるまでって…待てなくなったらどうすんだよ…。いや言われなくてもなんか酷いことされちゃうんだろうなってのは予想が付くが。
「…飯!酒!」
「はぁい」
頭の悪そうな返事を笑えない。
今日は腹いせにたっぷり集ってやろう。…それから、飲み食いした分くらいはしっかり考えてやってもいい。
どっちにしろ今の混乱した頭じゃ答えは出そうにない気がする。冷静になってから出るという保証はないんだけどな…。
「好きって…好きってなんなんだもう…!」
「好きってめろめろにしてどろどろに愛し合って生死なんかも共にしちゃったりしたいだけですよー。難しく考えなくても大丈夫」
さあめろめろになってなんてアホなことを言う男を突き離せない時点で、勝負は決まっている気がした。
癪に障る。腹立たしい。それなのに。
「馬鹿上忍。変態…!」
「そ?ま、馬鹿でも変態でも気にならなくなるくらい甘やかしちゃいますから」
そういって微笑まれると…なんかこう、このままどろっどろに甘やかされてしまいそうで。
それを嬉しいと思った時点で負けなんじゃないだろうか。
「飲んだら、ラーメンですからね!」
腹いせのように叫んだ台詞と共に乱暴に口付けてやったのは…多分最後の腹いせになるんだろうなと思った。


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適当。
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