仮眠室にて(適当)



「愛に飢えているんです」
真顔の上忍はどこからみてもいつも通りでどこもおかしくないように見えるんだが、常軌を逸している。
だってそうだろ?何で俺の手を握る?
っつーかだな!愛に飢えてるって、それは受付でわざわざ宣言するようなことなのか?それもしがない事務方の中忍相手に!
「疲れていらっしゃるんですね」
哀れみを込めた視線と声は、ある意味不遜かもしれなかった。
でもなぁ。どう考えたっておかしいだろう?
冷静沈着すぎて、時々機械みたいだと称する連中がいるような人が、こんなにわけのわからないことを言い出すって事は相当疲れてるに違いない。
普段は苛烈を極める任務ばかりだが、今日のは簡単なお使いみたいなものだったし、ってことは途中で敵に訳の分からん術を食らったって訳でもなさそうだ。
だからこの人に一番必要なのは睡眠というなの癒しであるはずだ。
手を握られたままなのはある意味都合がいい。交代要員が遅れているとはいえ、もう定時は過ぎているから、このままこの人を仮眠室にでも放り込んで来ればいいだけだ。
家まで送るってのは流石になぁ?第一俺はこの人の家を知らない。
狭い里だし、偶々飯を一緒に食うことになったことは結構あるんだが、上忍の家なんか知ってもいい事なんてないからな。 襲撃されて口を割らされたら…なんてことを考えたら、機密なんか知らないほうがいい。
「どこいくの?」
手を引き歩き出した俺に不思議そうに首をかしげる上忍には、曖昧に笑っておいた。
できるだけ刺激しないで、布団に放り込んだら寝かしつけてしまわなければ。
「お布団干したばっかりですから。ふかふかですよ」
子どもたちを寝かしつけるのと変わらない物言いにも、上忍はにこっと笑っただけだったので、こりゃ相当だなと内心あせりすら感じながら仮眠室に連れ込んだ。
不思議そうに辺りを見回しているのをいいことに、布団を整え、カーテンも閉めておいた。
「さあ、どうぞ」
干したての布団は太陽のにおいがしてきっと良く眠れるはずだ。
手招きすると引き寄せられるように上忍も寄ってきた。
よしよし。さあ寝ろ!ちょっと心配だから医療班にも話を通しておいた方がいいだろうか?任務の振り分けも考えないとだよな。
…そんなことを考える余裕すらあったのに。
「いいの?」
「ええもちろん!」
ぎこちなく聞いてきたのに力いっぱい頷いた途端。布団に引きずり込まれていた。
「いーいにおい」
「干したてですから。…あのーでも俺はですね。家に帰って…」
「イルカせんせ大好き」
「えーっと?えーっと?」
なんでベストを脱がす?まあベッドで寝るにはベストは邪魔だが…なんか違うよな?何だこの雰囲気。
「んー。まだ早そう?でも一緒に寝てはくれるんだよね?」
「え?えーっと。はぁ。でも狭いんじゃ…?」
添い寝が必要な年じゃないはずなんだが、寂しそうに聞かれたらついつい。
にしても狭いよな。俺もこの人もどっちかというとガタイがいい。
「おやすみなさい」
「えーっと…はぁ。そうですね。おやすみなさい」
抱き込まれたまま瞳を閉じてしまった。ついでに寝息らしきものまで聞こえてくる。
手触りが良さそうな頭を撫でてみると、喉でも鳴らしそうにすり寄ってきた。
…変な事になったが、まあいいか。
「疲れてんだよな」
きっと、俺も。だからこんなにも眠くて穏やかな気分なんだ。
瞳を閉じた瞬間、もうちょっとだけなら我慢しますからといわれた気がするが、それがどういう意味かはわからなかった。


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適当。
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