K(適当)



「あー…」
家に帰りついて、玄関のドアを開けて、締め切った部屋独特のむわっとした空気を覚悟しつつ部屋に入った。
ら、いた。でっかいイキモノが我が物顔でのびのびとくつろいでいやがったのだ。
「んー?」
お帰りもお邪魔しますも言わない。いや言われたってコレから追い出そうとしてるんだから困るっちゃ困るんだが…なんなんだよ。この傍若無人さは。思わず反応し損ねたじゃねーか。
上忍なら何でも許されると思ってるんじゃないだろうな?
「出て行ってください」
簡潔に用件を伝えたつもりだ。
それ以外に言いようがなかったとも言う。
「えー?」
…不満の意を表するにしたって、仰向けに寝転んだままってのはいただけない。
むしろ何から何まで頂けないんだけどな。
普通の平凡で一生懸命日々生きてるだけの俺に、ある日突然受付所で、アンタ俺のねなんていう所有宣言と共に、だからやらせて?なんてかわいこぶった口調で言い出したところとかも。
「…はぁ…」
今日は驚くほど気温が上がって、しかもおっそろしく忙しかったから疲れきっている。
疲労を癒すべく夏の新作カップラーメンでも食って、とっとと寝ようと思っていたのに。
家でまで面倒ごとが待ってるなんて、俺はどうしてこんなにもついていないんだろう。
「ふふ」
転がったままのイキモノは何が楽しいのかにやにやしている。
仰々しい顔布はいつの間にか取り去られ、イラつくほどに整った顔をさらしていて、それがまた腹立たしい。
何自分ちのようにくつろいでんだ!
「…出てけ」
「えー?」
…まあそうだな。多少きつめに言ったって、出ていくような生き物ならこんなことしないだろう。
なら、それなら。
「じゃあ、俺が出て行きます」
こんなイキモノのために迷惑をかけるのは悪いが、同僚に止めてもらうか、それともアカデミーの宿直室でも借りよう。
コイツが訳のわからないことを言い出したせいで皆怯えきってたから、できればこれ以上面倒ごとをおこしたくなかったってのにどこまでも迷惑な上忍だ。
「だめ」
いつの間にか起き上がったのか、背後にのしりと圧し掛かる重いものが…!
「駄目じゃねぇよ!俺はつかれてんだ!飯食ってとっとと寝たいんだよ!」
怒鳴りつけたのは正当な権利だったと思う。
だが、男は…にんまりと怪しげな笑みを浮かべたかと思うと、そのまま俺を担ぎ上げて、万年床と化している俺のベッドに放り投げやがったのだ。
「ごはんはあとでね?」
そう一方的に宣言して。

で、どうなったかっていうとだ。

殴ったし蹴ったし暴れたし、仕舞いには術も繰り出した結果、俺の貞操的なものは何とかギリギリのところで守られた。
「やりたいー」
「知るか!」
「ねぇ?なんでだめなの?」
「俺もアンタも男だオスだ!相手はかわいい女の人がいいんだよ!」
「女体化固定かぁ…でもアンタもさい女になりそうだよね?」
「あ、あほかー!?」
会話が通じないのがツライ。もっというなら疲れきっているというのに油断すると襲い掛かってきそうで眠ることも出来ないのがツライ。
現に今だってゆらゆらと瞳を揺らしながらだな…いつの間にか妙に近くにいやがるんだぞ?
「好き」
そしてまたこういうわけの分からないことを…訳のわからない…す、き?
「…はぁ!?」
頭のネジがすっ飛んでるにも程がある。もさいとか失礼なことも言ってたよな?それでなんで、なんで好きとかいいだずんだ!
「体からでいいから」
「いいわけねぇよ!」
「えー?」
「かわいこぶるんじゃねぇ!」
「だって欲しいし。かわいいもの好きでしょ?」
「まあ嫌いじゃないですが!アンタはおかしい!」
「そうねぇ」
「そこで納得するのかよ!」
眠い。このまま眠りたい。でもそんなことしたら朝起きたら違う自分になっている気がする。
さっき一瞬だが危うい所まで行った時に見たブツを思い出す。…でかいはふといは見た目は…まあ自分にもついてるもんだが、突っ込まれると思ったらえぐいの一言だ。ケツにあんなもんはいるか!
「ねぇ。ご飯にする?」
「…あー…飯食います。アンタは帰れ」
そうだ。せめて空腹だけでも満たそう。ラーメン食えば多少は元気になるはずだ。
台所に急ぐ俺になぜかぴったりとくっついてくるイキモノが鬱陶しい。
「いいなぁ。ごはん」
猛烈にいらっときた。いらっときたんだが。
…うらやましそうに、それから寂しそうに俺のラーメンを見つめる姿を見たらもう…放っておけなかったんだよ!馬鹿だって分かってるさ!
「これはおれんだ。こっちのなら分けてやる。食ったら帰れ」
「うーん?最初だからいっか」
「最初もどうもねぇよ!今度断りなく人んちに上がりこんだら天誅食らわすからな」
「てんちゅー…なにそれ?」
「天誅は天誅だ!いいから早くそれ開けなさい!中のかやくは開けていいですが…わー!?まてまて!そっちの液体は後だ!」
「はぁい」
うぅ…何で楽しそうなんだ…。まあいいや。食ったら出てくみたいだし、でてかなくてもたたき出すし、それ以上のことは…早く対策を考えよう。食ったら今日は寝る。
すったもんだの末なんとか完成したラーメンと、ラーメンらしきものを食って、やっとこさ渋る上忍を追い出した後、俺はなんとか睡眠を勝ち取る事ができたんだが。
その日から毎日カップラーメン片手にお湯を強請るという荒業を繰り出すようになった上忍に、再び悩まされることになるのだった。


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適当。
ツボを心得た上忍に軍配が上がる日は近いのかもしれないというお話。
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