痛み(適当)


うすっくらいのちゅうい。

服を脱ぐのも面倒だ。
こっちがなにもしなくても、どうせ男はしたいようにする。
だからその日は男の来訪に気づきつつ、ベッドから起き上がることもしなかった。
いつも通りなら逃げようとトラップを発動させるか、せめて抵抗の意思だけでも示すためにクナイでも構えているところだ。
だが今日はそんな気分にすらなれなかった。
「どーしたの?今日は。大人しいね?」
たやすくベッドに転がされることにも、あっさり引き剥がされる服にも、今更ながら実力差を思い知らされる。
抵抗してもしなくてもどうせ一緒だ。
好きなようにされて、こっちが力尽きるまでヤられたおかげで動けないのを、好きなように構い倒した後、勝手に出て行くのを見送るだけだ。
詰る言葉すらもう出てこなかった。
「ま、やりやすくていいけど。…つまんないの」
その台詞に傷つく自分に吐きそうになった。
少しだけとはいえこの男のおもちゃにされることを、自ら受け入れていたような気分にさせられるのはたまらなく苦痛だ。
どうして俺にだけ。
何度そう問い詰めたことだろう。抵抗しただろう。
その全てを無視してしたいようにしかしない男は、だが他の…この男の周囲にいるものたちへや優しい。
上忍はもとより中忍も、それから部下となった下忍たちにも、こちらが驚くほどに大切にしているのを知っている。
だが自分はどうだ。出会ってからすぐにこの関係に持ち込まれて、一度として同意したこともないのに身体だけはすっかり男を受け入れてしまった。
この男でなくても同性相手になど、考えたこともなかったというのに。
つまらないという言葉を楽観的に考えれば、もしかするとそろそろ飽きてもらえるかもしれない。
それだけを希望に、瞳を閉じた。
肌をまさぐる男のぎらついた瞳を見たくなかっただけだが、おかげでよけいなものまで思い出してしまった。
大切に大切に守り、育て、送り出した少年。
大事そうに撫でられて応援されていたあの子を見て、衝撃を受けた。
ただ子どもの努力を褒め、乱暴に頭を撫でただけだ。
…たったそれだけのことなのに、胸が死ぬほど苦しくなるなんて。
それが大切な教え子の心配だけなら良かった。
それとも努力を認められたあの子への喜びなら。…せめてそう誤魔化せたらよかったのに。
だが違った。
あの子に嫉妬するほど追い詰められていることに気づかされた。
もうとっくに自分が狂っていることも。
「あっ…!」
快感はいつも通り、そう、ぞっとするほどいつも通りに自分の身体を変えていく。
やるせなさで一杯の頭を、快感に塗りつぶしてしまえたら。せめて全てを感じずにいられたら。…少しはましなんだろうか。
「そうやって、鳴いて、もっと縋ってよ。逃げられないって分かったんでしょ?…やっと」
めんどくさそうにしているんだと思っていた。
もしくは欲だけの染まった顔をしているんだと。
でもちがった。
「い、や…だ…!見るな…!」
「イヤだね」
見ている。男が、俺を。
観察するように執拗に、見られているだけで四肢を戒められているように感じるその視線。
全てを見透かされているような気がした。
子どもに嫉妬してしまうほどおぼれている薄汚れた心まで、すべて。
でも、何に?
どうしていつの間にかこんなにも俺は男に満たされてしまったんだろうか。
「…あとちょっとなのに、どうして落ちてこないの?」
その欲望で俺を貫き、何度も殺し続ける男が、苦しげにそう問い詰める。
もういっそ、何も考えられなくなるまで全てを埋め尽くしてくれればいいのに。
背に回した手で爪を立て、縋った。
もう何もわからなくなるくらいまで、めちゃくちゃにしてくれることを願って。


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適当。
うすっくらい。不器用な二人。
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