遠い、故郷(適当)



のたり。
巨大ななめくじに寄り添われて、その重みに押しつぶされそうになりながら耐えた。
襲撃の気配に備えてこの忍獣を貸し与えてくれた五代目には感謝すべきだということはわかっている。
現に今放たれた術を食らっていたら、四肢の一つ位は失っていたかも知れない。
ただ、重い。そしてぬるりとした感触に、あらぬことばかり考えてしまう。
「無事ですか!次、来ます!」
甲高いどこか少女じみた声で、なめくじが警戒を発した。
もしそれがあの人の声だったら、きっと俺はおかしくなっていただろう。
任務なんてほっぽり出して、このくすぶり続けた欲望の赴くままに無体を強いたに違いない。正体なんて考えられないくらい、俺はあの人に飢えている。
尊敬すべき里長の、すばらしく治癒に長けた優秀な使いを前に、思うことといえば最低で卑猥なことばかりだ。
置いてきた。泣かれて怒鳴られてどうしても置いていくといったら、お守りとやらを押し付けて、それから泣きながら笑ってバカカシなんていわれて、それから一度だけ抱かせてくれた。
そうしてそれからそれっきり、俺たちは一度も会えていない。
湿って滑る熱い肉に己を沈め、無理やりな結合にかすれた声で抗うとも喘ぎともつかぬものを吐き出す体からすっかり力を奪うまで穿ちつづけた。
好きだと告げたのは自分からで、それに答えてくれるまでが長すぎて、手に入れた実感よりも暴走する欲望に流された。
ただ奪うことばかりに夢中になって、後になってあの人が歩くこともできなかったんじゃないかと気を揉んで、任務先から忍犬を差し向けてみれば怒声と愛の言葉を送り返してくれた。
その声だけで、達してしまいそうになるほどの恍惚感を覚え、触れてもいないのにぬくもりや匂いを思い出し、あの鋭くゆがみのない視線に晒されているときのように酷く興奮した。
今だってあの人の体温も肌の手触りもすがり付いて名を呼んだ声だって思い出せる。
忘れられない。
全てが焼きついてまるで火傷の痕のようにじくじくとした痛みを興す。
会えないことがこんなに辛いなんて、ね。
「あーあ。もうすぐ誕生日なのにねぇ」
祝い事に疎い身でも、その日は近しい人たちの手で祝うものだということくらいは知っていた。
それが自分に与えられたことは殆どなかったとしても、世間一般の恋人たちとやらの情報は、耳が腐るほど入ってくる。
とはいえ、“写輪眼のカカシ”を強請る女たちに幾度となく吹き込まれてきたそれらは、あの人が喜びそうにもないものばかりだった。
あの人が欲しがりそうなのは、小さなケーキや、生まれてきたことへの感謝や、それから…うぬぼれでなければ俺が側にいることだ。それも、できれば無傷で。
ずたぼろになって帰っても、きっと抱きしめてくれるだろうけど、ね。
あの人のためなら無駄に溜まっている私財の全部をなげうってもかまわないけど、あの人は多分それを嫌がる。
誰よりも男らしい人は、頼ることよりも受け入れて守ることを望んでいるから。
男同士の付き合いなんてものは当然初めてで、だから体ごと全部欲しくても、拒まれたらすぐに退いていた。
たとえやはり無理だと、体はやれないといわれても、できるだけ我慢するつもりだったし、欲しかったのはそれだけじゃなかったから、耐えるつもりだった。
抱かせてくれた理由なんて知らない。受け入れてくれたことだけでもう狂いそうなほどに嬉しくて、そんなこと考えもしなかった。
もしそれが同情でも、餞のつもりでも構わなかった。
…会えない時間が長すぎて、今は触れたいとかやりたいとか、そんなことばかり考えているけれど。
俺がいなくても、きっと平気だと胸を張ってくれるだろう。耐えることに俺以上に長けた人だから。俺を、悲しませることを誰よりも嫌がる人だから。
「がぁ!」
「うるさい」
捨て鉢になったのか、襲い掛かってきた敵は容赦なく切り捨てた。
鉄錆臭い液体を撒き散らして、物言わぬ肉に変わる。幾度こんなことを繰り返しただろう。
ああもう全てが煩わしい。早く、早く帰りたい。
帰れないかもしれないと知って、それでも俺にその体ごと思いを返してくれたあの人の下に。
「敵は、これで最後のようです」
確かにもう生きたモノの気配は感じられない。今日のところは、だけど。
「今日は、何日でしたっけ」
「え?ああ、今日なら14日、でしたね。確か」
ひとりごちた俺に、少女の声が涼やかにタイムリミットを突きつける。
…いっそ全てを捨ててあの人を浚いに行きたい位だけど、そうすればあの人が悲しむから。
「さっさと片付けなきゃいけませんね」
「はい」
ぬるぬるとした体を器用に折り曲げながら、なめくじが頷いた。
帰ったら、帰れたら。
きっとあの人の姿を見た瞬間襲い掛かって、欲望のはけ口にしてしまうだろう。
動けなくなっても意識を手放しても、その体から離れる事ができなかったあの日のように。
…きっと、祝うことなど忘れて。
「…イルカせんせ」
自分の手があの人に触れていない事が不思議でならない。
飢えて、乾いて、狂う前に、あの人の下に帰らなくては。…今狂っていないのかと問われれば首をかしげるのだが。
「お祝い、何にしよう」
帰ったら、帰れたら。…あの人は抱きしめてくれるだろうか。泣くだろうか。
でもきっと笑ってくれる気がする。
そうしたら。
「お誕生日おめでとうって、いわなきゃ」

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適当。
祝いじゃ祝いじゃ(`ФωФ') カッ!
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