巣抱くもの(適当)


「誕生日だから、喜んで欲しくて…」
しょげ返る上忍を前に、ため息がこぼれた。
そういえばそうだ。今週末は俺の誕生日。すっかり忘れていた…というか、自分の誕生日なんて、この年になったらそうそう気にするもんでもない。
何人かは祝ってくれそうな人の顔を思い出し、その中に多少大げさに祝ってくれそうな里長や知り合いの上忍が混ざっていることはさておき、とりあえずこんなとんでもないことをするのが普通ではないことは間違い無さそうだ。
「えーっと。普通は知り合いの誕生日に家を贈ったりしません」
両親をなくしてからなにくれとなく面倒を見てくれた三代目なら、多少親馬鹿が過ぎるプレゼントをくれたことはある。
びっくりするくらい高い忍具を贈られてしまったときなど、慌てて返しに行こうかと思ったほどだ。
その業物を父も使っていたと聞いて、そのときは結局貰ってしまったのだが。
家は、普通にありえないだろう?友人所か、知り合いと呼ぶのさえはばかられる程度の関係なのに。
「庭で犬飼いたいって。だから広い方がいいかなぁと思ったんです」
「あー確かに言いましたね。犬、好きですから」
さて、どうしたものか。
すっかり落ち込んでしまった上忍の口ぶりからすると、受け取らないなんて想定外だったに違いない。
家…欲しいものときかれて素直にそろそろ家でもと言ってしまった自分にも落ち度はある…だろうか。
そもそも挨拶を交わすのがせいぜいの関係だ。一度言い争ってからは、謝罪したとはいえより一層距離が開け、節度ある関係を心がけてきた。
そんな顔見知り程度の関係の相手に悩み相談なんて持ちかけられたら、そりゃ相当のことなんだろうとは思った。
大切な人のお祝いをしたいなんて、いきなり恋愛相談染みたことを言い出されたときは、厄介だなってのが本音だったとしても。
「これからも、ずっと一緒にいて欲しいんです。イルカ先生なら、何が欲しいですか」
そう聞かれたから、天下の写輪眼上忍にもやっと年貢の納め時が来たかと思ったんだ。
上忍だ。当然金は唸るほど持っているだろうことは創造できる。
自分以外にも当然聞いているだろうから、多少常識はずれなことを言っても大丈夫だろうという甘い考えが不味かったんだろうか。
逃がしたくないひとがいるなら、これから歩む道をずっと一緒に過ごしたいと思ったら…と考えたとき、ふっと思い浮かんだものが家だっただけなんだ。
母ちゃんと、父ちゃんが待っていてくれる所。随分昔に失ってしまったものを、未だに思い続けているんだと、自分でも驚いた。
よっぽど変な顔をしていたんだろう。上忍がじっと俺を見つめていることに気がついて慌てて犬なんていいですよねとか誤魔化して、それからすぐに礼を言っていなくなったから、呆れて帰ったんだとばかり思っていた。
それがどうしてこうなるんだろう。
「お風呂好きだって言ってたから、広いし、二人で一緒に入れます」
「そう、ですね。ああ、こりゃすごい。広…!」
「寝室はベッドにしました。それから…キッチンも二人で立てるようにちょっと広いです」
「あ、本当ですね。これなら…」
いきなり連れてこられて案内されて、意味がさっぱりわからないままに豪邸…というのはちゃんと生活できるような作りになっていて、一般的というには広い家をこの上忍が買ったことを知った。いやむしろ作ったんだろうな。
だが…仕上げに鍵を手渡されて、意味がさっぱりわからなかった。むしろ分からないままでいたかった。
切なげな瞳で見上げてくる生き物の視線に晒されるのは耐え難い。
鳥じゃないんだから、巣をチェックしてそのまま番になんてわけにはいかない。
家は、正直申し分ないというか…自分の好みを一生懸命調査したのがよく分かるつくりだ。
問題はそれをどうしてこんなにも距離のある自分と住まうために用意してしまったのか。
「イルカ先生が、俺に興味がないのも知ってます。近寄ると、今でも一瞬身構えますよね」
「え、あ」
そうだっただろうか。確かに顔を見るのが気まずいとは思っているが、顔や態度に出していたなら忍失格だ。
「ああ、違いますよ。だって好きなんです。だからずっと見てたってだけで」
「ずっと…?」
「任務はちゃんとしてましたよ?ただ、つい視線が追いかけてしまって」
なんて物好きな上忍なんだ。…正直に言えばそう思った。
好きでもなんでもない。多分、今でも。
ただじわじわと胸が苦しくなっているのは確かだ。
多分…そうだな。俺はこの人をほっとけないって思っている。きっとそれだけだ。
だがそれが切っ掛けで何が悪い。自分勝手なのは承知の上、こんなに苦しい思いをずっとするなんて…きっと俺は耐えられない。
「好きかどうかわかりません。俺は」
「…そう」
色違いの瞳が零れ落ちそうなほどに潤んでいる。
慰めなくてはと思うんだから、多分なんとかなるだろう。
「それでもよければ、一緒に住みますか?」
「え!いいの?」
「いいのといいますか…こちらこそ厚かましいと思うんですが、この家、俺のために用意しちゃったんですよね?」
「はい!」
もげそうなほど首を縦に振る男に感じたのは…とりあえず呆れもあるが、それ以外のものもきっとある。
胸があったかい。なんだろうな。この人。…不思議な人だ。
「一緒に過ごしてみてダメならそこまでということで。俺はいつでも出て行けますから、あなたも遠慮しないで下さいね?」
そもそも自分のことなど殆ど知らないだろうに。
そう思っていった言葉に、上忍は花が咲いたように笑った。
「イルカ先生が嫌っていっても、多分諦められないと思うので」
乙女のように頬を染めていうには物騒な台詞である気がしないでもないが、まあうん。それをかわいいと思えているんだから、何とかなるだろう。
真新しい家の庭で二人してどちらともなく手を握った。
これから始まる一年が、きっと今までと全く違うものになるだろうことを予感しながら。


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適当。
確信犯。
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