冬の夜道の(適当)

「あらら、寒そーね?」 それが真冬の雪道のど真ん中で、びしょ濡れでうずくまっている人間を見て言うことだろうか?
…だが寒いに決まってるとか、そんなことを言い返す気にさえなれなかった。
まあ当然だろう。四肢は冷たいというよりももはや感覚を手放し、勝手に震え続けている。
まだ何とか動ける内に、少しでも体を暖められる所に行かなければ。
それがどこかなんてことすら思いつかなかったとしても。
どっちにしろここにいる意味はない。側に立つ男の横をすり抜け、無言で立ち去ろうとした。
…いきなり腕をがっちりと掴まれて身動きさえ取れなくされた。
何が気に食わないのか知らないが、振り払うのさえ億劫な上に、触れる体温が暖かくて一瞬でも離れがたいと思ってしまったのが屈辱的だ。
「ね。寒いんでしょ?」
まるで歓楽街の客引きのようだ。
残念ながら寒いのは体だけじゃなく懐もだから、この男が本当に客引きだったとしてもついていくことなど出来ないのだが。
だがまあ…この状況からしてそれはありえない。こんな里のはずれの何もない所に女を置いている店があるハズもない。
この余裕も、気配も…俺が万全の状況であっても勝てない相手だって事はすぐ分かった。
まず間違いなくおもちゃにでもする気だろう。
暇を持て余した上忍が、下のものを気まぐれに弄ぶのはそれほど多くないとはいえ、そう珍しくもないことだ。
今日の俺は運が悪かったってことだろう。
抵抗しても無駄なら、この腕の温かさにだけ意識を集中していればいい。
どっちにしろ抗うだけの体力など残っていないのだ。
…殴られる位ですめばいいが。
諦めて肯定も否定もせず動くことをやめた体を、男は包み込むように抱きこんだ。
「んー?素直?っていうか、そんな元気ないだけか。…ま、いいや」
軽々と持ち上げられて、凍りつき始めていたとはいえ滴る水がしみこむのも気に留めず、迷いなく歩みを進める男に呆れはしたが、どうやら外でされるわけじゃないことに安堵した。
しがみ付くこともできないまま、冷えて乾いた瞳を閉じると、静か過ぎる世界に鼓動だけが響いて。
白く白く意識が塗りつぶされてしまうまでに、そう時間は掛からなかった。
*****
意識を手放すつもりはなかったが、自暴自棄になっていたのは否定しない。
だから予想外だったんだ。
こんな風に扱われるなんて。
「ここは…?」
気付けば軽くて温かい布団の中にいて、差し出されているのは湯気を立てる温かそうな飲み物だ。
「俺のうち」
匂いからして普通のお茶だ。
一口舐めて確かめてからの見下すと、その温かさに安堵の溜息が零れた。
「ありがとうございます」
捕まえられた時もこんな男に興味を持つなんて、随分と物好きなことだと思ったが、どうやら予想より更に輪をかけて物好きらしい。
あからさまに訳有と分かる人間を自宅に連れ帰るなど、正気の沙汰とも思えない。
男が上忍だとすればなおさら、命を狙うものも多く、どこに危険が潜んでいるか分からないというのに。
礼は言ったが、これからどうしようか。
上に訴えればそれだけまた騒ぎが大きくなる。それはつまりあの子がそれだけまた余計な恨みを買う可能性が高いということだ。
やられたままでいるつもりもないが、下手に戦うこともできない。
今はまだ、あの子が幼すぎるから。…自分で自分を守りきれるようになるまでは、ある程度盾になるしかないだろう。
殴られる程度なら慣れていたが、流石に真冬の野外で水遁を食らったのはまずかった。術まで使わないだろうと甘く考えていた。
とっさに反撃するのに俺も術を使ってしまったが、逃げ足の速い連中を追払う程度の効果しかなかった。
…まあ、興奮の余り術を使った自分たちにあせったというのもあるのだろう。里内での不用意な術の発動が誤魔化し切れるほど、この里は甘くない。
節々が軋むのは寒さ以外の理由だろう。
無意識に痛む箇所に触れようとした手は、届く前に掴まれていた。
「んー?で、誰にやられたの?」
暢気な声とは裏腹に、ぶつけられるチャクラは重い。
「く…!?」
「ああ、ごめんね?だって腹が立つじゃない」
俺のモノにちょっかいかけるなんて。
殺気染みた気配に身構えるのに忙しく、笑顔がキレイすぎることに気付くのに時間が掛かった。
本気で言っているのか。コイツは。何処かの俳優みたいな顔してるくせに。
…鋭い視線は、この男がそんな存在じゃないことを教えてくれていたが。
「俺は誰のモノでもありません」
不況を買うのを承知で吐き捨てると、男が目に見えてしょんぼりしたのがすぐわかった。
正に豹変したというのが正しいほどに、鋭さが取れたのが分かる。
「え…!?でも気に入ったんだもん。そんなのだめ。今から俺のになってよ」
ぎゅうぎゅうと抱きしめられて息が詰まった。
しょんぼりした顔のままなのに、行動は随分と強引だ。
「お断りします。…助けてくださったお礼はさせて頂きますが、それ以上は」
「じゃ、お礼!お礼に頂戴?」
「お礼に人間は無理でしょうが…」
めまいがするのは体力が戻っていないせいなのか、それとも目の前でキラキラした眼でとんでもないものを強請る男のせいなのか。
「…ん、分かった。どっちにしろさっきのは気に食わないから片付けてくるし、アンタの事は帰さないんだし、どっちでもいいや」
「良くないでしょうが!?」
聞き捨てならないと言うか、ありえない。
暴力に耐える覚悟はあっても、この男に所有される予定などない。
「じゃ、どうしたらいいのよ?」
「…え、いや、その…!?」
どうしたらいいのか考えていたのは自分だったはずだ。
それがどうしてこんなわけの分からないコトになっているんだろう。
「ね、恋人とかならどう?」
「どうって…!?」
「んー?愛人は嫌なんだよね。奥さんは?」
「俺は男です!」
「あ、それは知ってる。風呂入れたときちゃんと見たし」
「!?」
慌てて自分の体を改めると、アザだらけなのは予想通りだったが、服を身に着けていないことに今更ながら気がついた。
「なんにもしてないよ。触ったけど」
「…」
もっと酷い目に合わされることを覚悟していたくせに、実際に…しかもこういった芳香で何かされたときかされたかと思うと流石に動揺した。
「じゃ、ちょっと待っててね?すぐソレ、やった奴ら全員潰してくるから」
爽やかに立ち上がった男が本気なのは、これまでの行動から間違いない。
「ま、待ってください!」
こんなコトでぶち壊されるなんて冗談じゃない。折角これまで…あの子を守るために耐えて、密かに計画を進めていたるというのに。
今日の連中は確かにタチが悪かったが、俺の立ち回りもまずかったのことだ。
彼らの気持ちがわからないでもなかったが、どうせ片付けるなら…一度に全てを処分した方がいいに決まってる。
「ふぅん?なにかあるのね?」
正直に言えば俺の素性もばれる。そのあとでまだこの男が俺を味方だと考えてくれるかは分からない。
「…俺を帰して下さい。迷惑になりますから」
それ以上のことを言わずに口をつぐみかけた俺に、男は言った。
「…恋人のお願いなら聞いてもいいんだけど?」
*****
真剣な眼差しに思わずうなずいた俺が馬鹿だとしか言いようがない。
たちの悪い脅しみたいな言い方だったのに。
断るつもりが余りに真っ直ぐに俺に向けられた視線に抗えなかった。
…しかもうなずくなり歓声を上げた上忍に、うっかりほだされたなんてこと、絶対にだれにも言えない。
「寒かったせいなのか…!?」
こうして側にいるようになってから何度目かの冬が回ってきて、寒くなるたびにこうやって呻く俺に、猫のようにしだれかかりながらしっかり恋人になってしまった上忍が笑う。
「んー?運命ってやつでしょ?きっと」
その自信に満ちた瞳に縫いとめられてしまう。
この男が余りにも強引で必死で…可愛く見えるの悪い。
ふざけながら不埒な動きを始めた男の手とじゃれあいながら、そんなコトを思った。


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適当ー!
ほのかにえろすはむりでした。
ではではー!お気が向かれましたら突っ込み等御気軽にどうぞー!

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