おいかけっこ16(適当)



逃げて、きちゃった。
父さんは…まああのくノ一も強そうだったけど、負けることはないだろうし、三代目が何かしたみたいだったから大丈夫だろう。
イルカの父親も三代目に幻術食らってたのによくイルカ捕まえられたよね。イルカに幻術かけなかったせいであっという間に逃げられてたけど。この場合も爺馬鹿に感謝しておくべきだろうか。
お腹が減ったって言ってたけど、やっぱり疲れてたんだろう。よく眠っている。この分じゃしばらくは目覚めそうもない。
あどけない寝顔は自分の周りにいる大人たちとはまるで違っていて、こんな風に無防備なイキモノがいるんだと少し驚いた。
この子は、もう俺のモノ。だから俺が守らなくちゃ。
「逃げてくれたんだもんね」
イルカは多分俺を守るために逃げてくれたんだと思う。
でもそれがたとえ自分の親を守るためでもよかった。一緒にいられるだけでこんなにも幸せだから。
正気を手放しかかってたあのくノ一は、幻術なんてものともせずに襲い掛かってきた。
イルカごと術で跳ぶか、いっそ部屋ごと吹っ飛ばすことまで考えたけど、イルカがすごく一生懸命目配せしてきたからつい。
イルカの母親は…父さんとの相性が最悪そうなんだけど、イルカと逃避行って言う状況があまりにも魅力的過ぎて、差し伸べられた手を取ってしまった。
でも、イルカは多分事態をこれっぽっちも理解してないだろう。
だっておねしょとか言ってたし。おねしょって聞いてなんか…なんか妙にどきどきしたのは置いておくとして、一緒に寝る口実にできるなぁって思ってちょっと嬉しくて、でも速攻否定されて寂しかった。
まあでもそうだよね。毒とか食らって下ったとかじゃないかぎり、排泄で失敗するって多分情けないことなんだろうし。
何かしらお土産を持って帰って許してもらってるみたいだけど、今回は別だ。
イルカに怒ってるんじゃなくて、俺がしでかしたことが筒抜けなだけだろう。
…あのくノ一、そこそこ腕が良くて名も売れている。医療忍にもそれなりの影響力があると見ていいだろう。
「先生…」
対抗できるとしたらあの人だけだ。
三代目はイルカをすっごくかわいがってるみたいだから、必ずしも味方になるとは思えない。里長っていうのもある。個人よりも全体を優先することを考えると…多分血統的に優秀なイルカを俺のモノにしてしまうことに反対してもおかしくない。
父さんは問題外。戦闘だけを考えたら多分三代目も敵じゃないレベルだし、戦場にだせば戦略にも長けた人なんだけど、普通の日常生活とか、普通の日常会話とかは壊滅的だもんね。火に油を注いじゃうこともしょっちゅうだし。
そうなると残された切り札は、あのちょっとどころじゃなく変わり者でちょっとちゃらんぽらんでぬけたところがあるけど、腕だけは天才的なあの人だけなんだけど…。
「大丈夫かなぁ…」
不安だ。すっごく。頭はいいんだけど、なんていうか、父さんとは別の意味で思考が明後日だし。
「ん、…んー…ふぁあ良く寝た…!うえ?カカシ!?」
驚いて目がまん丸で黒くて綺麗で、なんだろう。もどかしい。触れているだけじゃ我慢できなくなりそうだ。
いっそどこかに閉じ込める。とか。
…ま、どっちにしろ今は早すぎる。
「おはよ。どうしよっか?」
このまま先生を待つのは躊躇われた。だってなに考えてるかわかんない人に、変な期待はしないほうがいい気がするじゃない。
だからとりあえずイルカを不安にしない方を優先することにした。
「あ!そうだった!…うー…母ちゃん魚好きなんだよ。釣ってくるからカカシは…薬草とか頼んでもいいか?」
「それじゃ、一緒に探そう?すぐ近くなんだ。それにほら、お腹減ったでしょ?まずは何か食べようよ」
「ホントか!ありがとな!うっし!じゃあ行こう!」
顔色もいいし、術の反動は一応収まったみたいだ。
元気なイルカにホッと胸をなでおろしつつ、さりげなく手を握った。
ちょっと驚いた顔をして、それからすっごく優しそうな顔をしてくれて、その手が握り返された。
「一杯獲ろうね」
「うん!」
イルカは俺を嫌がらない。俺を守ろうとしてくれる。それに…太陽みたいに笑ってくれた。
もうそれだけでいい気がした。


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適当。
逃げ切った二人はとりあえずサバイバル演習。
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