ひとくいおにのこもりうた2(適当)




これの続き。


「よく見な。…本当にお前は知らないんだろうね?」
「はい」
 忍なんてものをやっていれば、死体なんてみなれたものではあるが、こうして切り落とされた首を眼前に突き付けられるなんて経験は早々ない。それも火影様の前でなんてな。
 自分の手で切り落としたことならあるんだから、この期に及んでぎゃあぎゃあ騒ぐことでもないが、この状況が不可解でならなかった。
 散々な目にあって、それからまたさらに不可解な出来事に巻き込まれかけている。ついてないってのはこういうときにいうんだろうな。きっと。
 あの男は、好き勝手に振る舞って、その日の夜に一度姿を消した。それからいうことを聞かない身体に鞭打って、まずは風呂だとよろけながら体を洗い流し、そのまま寝たいがなにか腹に入れなければ治るものも治らないと、せめて兵糧丸でも口にしようとしたってのに、それを横から突き出してきた手に阻まれた。…あれだけ、本来なら懲罰の対象にすらなりうることをしでかしておいて、まさか戻ってくるとは思わないだろう?普通。それが許されるだけの地位にあるからか、それとも元々自分勝手なだけなのか、しれっとした顔で戻ってきた男に、もう目が覚めたのなんて少し驚いたような声で言われたのは覚えている。
 そうして、男はそれが当然の権利だとでもいうように、そのまま疲労困憊しきった俺を組み敷いた。怒鳴っても喚いてもそれから泣いて頼んでも、終始楽しそうに興奮しきったきれいな面を惜しげなく晒しながら、徹底的にやり倒しやがったんだ。どこが切れ目かわからなくなるくらいしつこかった情事の合間に、一応は風呂だ飯だも合間に世話を焼いてはくれたものの、ありがたいなどと思えるはずがない。
 こうしてやっと仕事に出勤できる状態になるまで、どれだけ時間を要したことか。本当ならたっぷりなじってやりたいところだが、こっちがなにをしたところで動じもしないのはわかりきっていたからそこは諦めるしかなかった。
 せめていっそぶん殴ってやりたいと思うのに、こっちが回復したのを見計らってか、徹底的にやりたおしてくるからそれもできないままだった。何が切っ掛けでこの男が暴走するのかわからない。おかげで仕方なく大人しく静かに隙を見せるのを待っていることしかできなかった。その間に体の方がなれたのか、なんとか歩けるようになったのを機に、絶対に出勤すると主張して、それが叶えられたのは今朝方になってからで、ほぼ睡眠など取れていない体は未だに鈍い痛みを訴えている。どうやったのか、自宅に軟禁されていた期間分、きちんと休暇申請がなされていたことだけは多少ありがたいと思わなくもなかったが、犯罪の隠蔽に対する報酬にしちゃ割に合わない。
 挙句に、これだ。少しくらい毒を吐くことを許してもらったってかまわないはずだ。里長の前で口にできるほど無神経じゃないけどな。
「この男…お前を狙っていたって報告があがってる」
「そう、ですか」
 狙っていたときいて、一瞬あの男の顔が頭をよぎって身震いした。まあ流石に普通の、いやむしろゴツイ体の、男でしかない顔をした中忍に、そんな気を起こすのはアレくらいもんだろう。たった数日のことなのに、毒されちまったみたいだ。アレだけ濃密に混ざり合えば仕方がないのか?
 ガラスケースに収められた少しばかり年のいった男の頭は、驚いたような間抜けな表情のまま、永遠に時を刻むことをやめている。そしてその顔には見覚えなど少しもなかった。受付やってる俺が知らないって、それはつまり相当長期任務に出ているか、もしくは…俺が目にすることのない部隊に所属していたか、ってことだ。たとえばあの男と同じ部隊に。
「死因は毒も術も使わないで刃物でバッサリってとこだ。死亡推定時刻は三日前。…一応聞くが、お前、この日何をしていた」
 いいたくない質問だ。正直に告げたところで、原因が処分される可能性は低い。
 かかわるべきじゃないと本能が大騒ぎする相手と、ここで接点を持ちたくなんかなかった。しかもどう誤魔化すか思案する時間も、その原因に奪われることになるなんて、思いもしなかった。
「俺といちゃいちゃしてましたけど?朝までね」
「カカシ!お前は!勝手に休暇なんか取るんじゃないよ!ったく!怪我でもしたんならともかく、前もって言っておいてもらわなきゃ任務の差配が面倒だろうが!」
 無茶苦茶な文句のつけ方だが、当前のことではある。そうか。この男はわざわざ休みを取ってまで俺に張り付いていたのか。ぞっとする。
 それはもしかしなくても、あの行為はただの気まぐれじゃなくて、逃げられないという意味じゃないだろうか。上忍は気まぐれで、執着が激しいほど飽きるのも早いだろうと楽観しようと己に言い聞かせていたってのに。
「俺ね、自分のモノにちょっかいかけられるの大嫌いなんで、護衛もずっと貼り付けてましたよ。俺が帰ってくるまで護衛させてたヤツ、ここに呼びましょうか?」
 笑顔の割りに気配が冷たい。指先が震えだしそうになるのをこらえるだけで精一杯だ。
「もういい。お前絡みって時点でありえないのはわかってるよ。ったく。とんだ無駄足だ!」
「俺のにちょっかいかけてるんだもんそりゃあね?」
 怒り狂う里長に対してなんていい草だとか、言ってやりたいことはたくさんあった。あったがしかし、それよりも勝手に俺のもの呼ばわりされていることの方が恐ろしい。なんなんだこいつは。しかも護衛だと?そんな気配少しも感じなかった。いつからみられていたんだ。俺は。後ろ暗いことなんてしちゃいないが、勝手に他人に生活を覗き見されるなんて気持ち悪いだろうが。
「まさか無理やりじゃないだろうね」
 未だ怒りを残したその声に、思わず血が下がった。賭け事に関してはさっぱりなのに、どうしてこういうときだけ察しがいいんだ。…今これを機会に助けを求めるべきなんだろうか。恥も外聞も捨てれば、この人なら。
「さあ。だったらどうするんですか?」
 火影の前でこんな態度を取れるのは、この男くらいのもんだろう。
 少しも引き下がる様子がないことからも、こいつが里長をひっぱりだしただけじゃ諦めないってことも察することができた。最悪だ。
「…上忍はたけカカシ。お前に任務を与える。そこの中忍を守れ。この一件が片付くまでな」
 凛とした声には、常にはない威厳があった。流石五代目。…っておい待ってくれ。それはつまり、この男がずっと俺のそばから離れないってことなのか?
「りょーかい」
 しれっと了解して見せた男は、何が楽しいのか恐怖に震える俺に、無駄にさわやかな笑顔を見せ付けてくる。畜生。俺がなにしたってんだ。
「護衛対象に手ぇ出すんじゃないよ!わかってんだろうね!」
「や、それはどうかなぁ?無理でしょ?」
 …終わった、な。またあんな目に合わされるくらいなら、いっそ敵の手にかかった方がましかもしれん。限りなく絶望に近いものが腹の中を満たし、目の前が真っ暗になった。
 五代目が話しかけてくれなかったら、そのまま意識を手放していたかもしれない。
「…イルカ。どうする?お前をここにおいてもいいが、ここも安全とはいえなくてね」
「ど、どういうことですか!まさか五代目に…!」
「そういうことだ。なにせあたしはポッと出の火影だし、女だからってだけでぐちゃぐちゃいうやつはいくらでもいるからね」
 自然と、昔、母がしてくれたように優しい手が頭を撫でていった。
 皮肉な笑みを浮かべるその美しい相貌は、どこからどうみても、いっそ俺より年下に見えるほどに若々しいのに、その中身はそういえば母と同年代なのか。あの時逝ってしまった人を思わせるぬくもりに、自然と涙が零れ落ちて、それから。
 ひったくるようにぶしつけな男の腕の中にしまいこまれていた。
「さわんないでくれます?俺のなんで」
「同意を得てからそういうことはいいな!…やはり引き離すか。お前は事務仕事も得意だと猿飛先生からも聞いているしね」
「それは、その」
 書類仕事は確かに得意だ。作戦会議―なんて三代目まで巻き込んで遊んでいたころから色々教えてもらって身につけてきたものが、しっかり役に立っている。どうやら俺に向いていたらしい。
 だが、いいのか。普段は片時もそばを離れない側近の姿が見えないのも気にかかる。
「俺はどこにいてもこの人から離れませんよ?
「なら、きまりだな。あたしは書類仕事ってのがどうも苦手でね。手伝いな!」
「はい!」
 この人が火影であるということだけじゃなく、母のような人に請われて、頷かないはずがない。実際問題として、書類がうずたかく積み上げられている現状から考えても、俺がここに詰めることを不振がられることもないだろうし、この男をそばに貼り付けたまま生活するよりずっとましだ。
「えー?」
「…お前はこの子がここにいる間、とっとと塵を狩り出すんだね。」
「ま、それもありですかね。ちょっかいかけたら綱手姫でも」
「はは!恋に狂うかあのスカした小僧っこが!おもしろいねぇ!まあせいぜいがんばんな!脈なしってわけじゃなさそうだしね!」
「とーぜん。じゃ、くれぐれもその人のこと、頼みますよ?」
「わかってるさ!とっとといきな!」
 二人の会話が速すぎてついていけない。挙句、思わず息を呑んでしまったほどの勢いで背を叩かれた上忍は、窓から吹き飛ばされる前にくるりと回って勢いを殺して見せた。
 顔もいい上に腕までいいとか嫌味なヤツだとののしる暇さえ与えちゃくれない。
「は?え?おわ!」
「いってらっしゃいのちゅー。ごちそうさま」
 一瞬だけ触れた温かく湿ったものの正体を悟り、頭が沸騰するかと思った。
「ななななな!何すんですか!火影様の前で!」
「ははははは!ああおかしいったらないね!…カカシ。やりすぎるんじゃないよ?」
「さあ、それはどうでしょうねぇ?」
 さっき俺を絶望させたのとそっくり同じ言葉を口にした男がその身を窓の外に躍らせた後も、しばらく執務室には女傑の笑い声が響いていた。



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適当。
あきなので湿っぽく。うっすらつづくかもです。

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