当たって砕けなかった話(適当)

「…当たって砕けろって、いうよな?」
「当たって砕けたら駄目だろうが!…まあ、その正直言って…」
「いいんだ。わかってんだよ。俺が一番…」
「泣くな!男だろ!」
「そうだよ!男なんだよ!今までそんなんで悩んだことなかったのに…!」
男に生まれて、山あり谷あり紆余曲折へてなんとか一人で生きてきた。
それが、始めて一緒に隣を歩いて欲しい人に出会ったというのに、何の因果かそれが男。それも上忍。しかも凄腕。年齢なんて気にしないけど、年まで上だ。
それももてる。それはもう半端なくもてる。
素直にそれをうらやましいと思えたら良かったのに、俺が嫉妬したのは回りにまとわりつく女たちの方だった。
隣を歩いても不自然じゃないし、簡単に誘いをかけることもできる。
その全てがうらやましくて、泣きそうになって…結果的にそれで自分の抱えている厄介な感情に気付けたのだからよかったのか悪かったのか。
好きで好きで仕方がない人が、ほぼ確実に思いの届かない相手だった。
これを嘆かなくて何を嘆く。
身の程知らずと諦めることができるくらいなら、好きになんてならない。
…厄介なこの思いをぶちまけられる相手がいたことだけは救いか。
様子がおかしい俺に気づいて、こうやって一緒に飲んで、くだらない愚痴を聞いてもらえるだけでもこの苦しさが楽になった気がする。
どうせ駄目ならさっさと告白しようと決められたのも、こうやってなにくれとなく気に掛けてくれる仲間たちのおかげだ。
今までトチ狂って襲おうとした連中は返り討ちにあったとか、あれだけまとわりついていた女たちも誰一人として相手にされなかったとか、花町ではモテモテだとか、ご近所のわんこにももてもてだとか、でも駄菓子屋の猫にはそっと無視されてちょっとへこんでたとか、そんな情報だってあっという間に集まってきて、そのたびに舞い上がったり落ち込んだり和んだりと、せわしなく一喜一憂する自分に、あの人のことだけで頭が一杯だってことを思い知らされたりした。
「ま、まあまあ!…男らしく告白するって決めたんだろ?」
「ああ…」
気持ち悪いって思われるのはしょうがない。
でもできるだけ不愉快な思いはさせたくない。
ついでにできれば…そう、できれば穏便に振って欲しい。
よって、衆人環視の元でなんてのは無理だ。
どこで告白したら一番忘れやすいだろう。
家の前で待ち伏せなんてしたら気持ち悪さに拍車がかかりそうだし、受付でずーっと待ってたら噂になりそうだし、かといってナルトたちを出汁にしたくない。
「ここにいたらなー…さくっと告白してさくっと玉砕して、ついでに自棄酒飲めるのになー…」
ありもしない愚痴に頷いてくれるだろうと思った同僚に視線をやると、何故か畳の上に倒れている。
「え!?あれ!?おい!大丈夫か!?」
酔いつぶれるほど飲ませていないはずだ。最近彼女に言われたとかで自重してはいたが、何せ俺もコイツも元々ザルだから、精々徳利1本分も飲んでいない今、倒れるなんてことはありえない。
「大丈夫ですよー?」
「へ?えぇえぇ!?」
驚いた。なんてタイミングだ。
俺の天使…もとい、これから告白大作戦を計画するはずだった人が目の前で微笑んでいる。
「こんばんは。イルカせんせ」
「こ、こんばんは…!」
この声も、好きなんだよなぁ…!指長い。あ、睫も。…それに、いつも瞳が優しい。
これはチャンスだ。
同僚のことは心配だが、上忍が大丈夫っていうなら多分問題ないだろう。仲間を大切にするこの人が、嘘なんてつくはずがない。
さっさと告白してフられたら、酒盛りでもする予定だったけど、その足で病院に担ぎ込んでやればいい。
自分でも舞い上がってるのは分かってる。でも、きっと今を逃したら、俺は告白なんて一生できない。
「カカシ、先生」
「はい。なんでしょう」
「あ、あの…っ!俺、あなたが、好きです!」
「え!」
片方だけさらされている瞳が見開かれている。
そりゃ驚くよな。いきなり男から告白されるなんて。
「…ちなみに、恋愛感情ってヤツの方です。気持ち悪いこと言ってごめんなさい。フるならばっさりやっちゃってください。受付だけは出なきゃいけませんが、できるだけあなたの視界にはいらないようにしますから」
思ったより淡々と言うことができたが、内心はもうとっくにパニックだ。
返事は欲しかった。…だが言わないってことが答えなのも予想できてる。
好きで好きでどうしようもなくて…でもこれ以上この人に迷惑をかけられない。
ああ、いっそ消えてしまいたい。胸に広がるこのじくじくと膿んだような痛みが消える日が早く来るといいんだが。
同僚を担ぎあげようと立ち上がった俺の手は、告白したばかりの相手に止められた。
「駄目。触っちゃ駄目」
「あ、あの…!離してください…!」
なんなんだよもう…!もうそっとして置いてくれればいいのに。
フるなら早くフって欲しかったけど、それができないならもう俺に構わないでくれよ…!
自分勝手な嘆きに反応したかのように、男は悔しさを隠そうともせずにまくし立て始めた。
「だって、二人っきりで飲んでるんだもん。俺なんかずーっとずーっと言えなくて苦しくて…それなのにコイツはあなたと親しそうに話してるから…つい」
「へ?」
なんだろう。不穏な空気を感じる。
同僚に手を伸ばすだけで殺気立つこの人のことばが理解できない。
「好きです。好きなんです…!だからもう俺以外と二人っきりでなんて止めて。お願い」
つまりは嫉妬なんかしてくれちゃったわけなのか。
そんなの…そんなの大歓迎だし!
とりあえず握り締められた手を握り返して、それでも足らなくて抱きついてみた。
「カカシさん。好きです。あなただけです…!コイツには彼女がいて、すっごく仲がよくて、だからあなたにどうやって告白するかって相談を…!」
「うそ…!きゃー!もう!うそでもしらない!」
…お互い何がなんだか分からないうちに告白なんだか嫉妬してるんだかわからない叫び声を上げながら、気付いたら何故かカカシさんの家にいて、ついでにもじもじしながらもう一回告白しなおしたり愛を囁いたりと大忙しだ。
しかもあれだけ悩んでいたっていうのに、サクサク初めてのキスまでたどり着いて、あんまりにも幸せすぎて離れがたくて二人でくっついて眠ることができた。
好きで好きでどうしようもない人と、だれよりも近くで過ごす幸せに眩暈がしそうだ。
だって、好きって言ってくれたもんな!
こうして、俺の告白計画は十分に策を構築する前に大成功を収めたのだった。
…ちなみに、犠牲者となった約1名には二人で翌日土下座して謝って、ついでにのろけてしまったため、アレ以来二人そろって溜息と苦笑いを貰っている。


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てきとー!ねむいので!
あまりにも健全にすやすや眠る中忍を襲いかねた上忍から、犠牲者が再び犠牲になる日は近かったりして。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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