失われた記憶20(変態さん)


「いいか?駄犬。まずは賭けの条件の確認だ。…当然覚えてるな?」
「はぁい!一目ぼれしてくれたらぁ…お風呂掃除するイルカせんせをたっぷり視姦できるんですよね…!すっごくすっごく楽しみです…!」
…なんかこう条件は確かに風呂掃除だが、駄犬が言うとどうも違うことが目的にされているような気がしてならない。
風呂掃除ならまだなんとかなると思ったのが甘かったか…!
っていやいやまてまて。俺まで駄犬のペースに流されてどうする!
賭けは、確実に俺の勝ちだ。きっちり負けた分の責任を取らせてやる…!
「で、俺が勝ったらお前は…」
「何でも言うこと聞いちゃいまぁす!朝までぬかずの10発でも、猫耳つけてご奉仕でも、多重影分身100人切りプレイでも…!」
…駄犬の妄想力は相変わらずとどまることを知らんな…。
駄犬に実行される前に確実に食い止めなくては。
まずは俺の安寧を取り戻すためにも、色々勝手にしでかされたことを原状回復するのが先決だよな?
「そうだな。まずは離婚…と言いたいとこだが、この指輪はずせ」
まずは駄犬が絶対に頷かない条件を提示し、譲歩したとみせかけて確実に駄犬を操縦する。
それがこの計画だ。
普段の上忍の知略を失っていなければ多少はマシだったんだろうが、今回ばかりはそうも行くまい。
なにせ俺から離婚なんて言葉を聞いた以上、平静ではいられないはずだ。…といってすぐ撤回してやったんだけどな。
「り、こ…」
「駄犬?お、おい!どうした?」
動揺するのが織り込み済みとはいえ、どうも様子がおかしい。
…駄犬が暴走しない程度の条件にしたつもりだったが甘かっただろうか。
震えながらうつむいた駄犬を見ている限りでは、何かの発作を起こしたかのようにも見える。
「なんだ!?お前まさか具合悪かったのか!?」
変態で腐っても上忍とはいえ、コイツも一応人の端くれ。たまには体調を崩したっておかしくない。
ごくたまとはいえ風邪を引いたことだって、そういえばあったからな…。
慌てて顔を起こして目をみたら…泣いていた。それも無表情に涙だけを流して。
「駄犬!おい駄犬!?」
慌てて頬を張った。前に離婚という単語を口にした時はもっとこう無理でぇすとか言い出してそれでうやむやにされた記憶があるんだが…。
どうしたんだこれは。
「い、いやですいやですいやですぅ!離婚プレイって未亡人プレイ…!?で、でもそしたら間男も俺…!それはありな気がするんですけどやっぱりいやぁ!それに一目ぼれしてくれたじゃないですか…!まさに運命…!たしかにちょーっとだけとはいえ間男に制裁加えちゃったし、イルカ先生からならいつでも何でもおねだりオッケーですけど!」
「やっぱりお前なんかしでかしてたのか!?いやその前にそもそもお前たっぷり変態行為働きやがって、欠片も普通の上忍らしいところなんてなかっただろうが!」
同僚が心配すぎる。
前もそれこそ記憶がないとか俺に近づこうとすると行動がおかしくなるとか色々あったからな…。
それに俺が!いつ!どこで!この駄犬に一目ぼれなんかしたっていうんだ…!
「なんでもって、なんでもって…でも…でも…!指輪ははめちゃった段階でもう二度と外れないし…むしろ今すぐイルカせんせにはめちゃいたい…!」
「やっぱり、無理なのか…」
一目ぼれしたとかいう勘違いについてはイラッときたが、指輪に関してはある程度諦めがつくというか、三代目でも無理だっていってたからな。そこはまあ一万歩譲ってしょうがないことにしよう。…交渉に譲歩はつき物だ。
「じゃあしばらく俺に近づくな。一人で過ごしたいんだ。特に最近クソ暑いからな。すずしく静かな空間で快適な睡眠をとらせろ。薬物の常用ってのも怖いしな」
駄犬のおかげで何もせずに寝られる日は激減した。
つまりはそれ相応にダメージが来るわけだ。
悲しいかなある程度の慣れもあって大分耐えられるようになってきているとはいえ、駄犬の暴走具合のつけはきっちり体に溜まってきている。
精神のダメージも…それはもう口では言い切れない位に色々と。
「イヤです…!わ、忘れられちゃうのも怖かったし、イルカせんせとはなれたら…しんじゃいます…!」
「何度も言うが、言い出したのは貴様だろうが!」
言ってることがめちゃくちゃだ。…こんな風に泣かれたら、こっちが悪い気がしてくるじゃないか…!
「うっうっ…!で、でもぉ…!記憶消して最初に会った時もちゃああんと俺だけを見てくれたし、たっぷり踏んでくれたし縛ってくれたしプレゼントまで…!それにぃ時々すごーく優しい目でみてくれたし!」
最初に会った時…って一人で弁当食ってたんだから、駄犬以外見る訳がないだろうに。
普通に不審者がいたら縛り上げるのは普通だ。踏んだのは…まあちょっとした憂さ晴らしっていうかなんかこう踏みたく…やっぱり駄犬の悪影響が深層心理にまで…!?
だが、優しい目なんてしただろうか?いつ?どこで?…駄犬の妄想補正だろうか。
問いただしてやりたい気もしたが、どうせ妄想を垂れ流されるだけに違いない。もういっそぶんなぐってやりたいが…避けられるんだろうな…。
「…で、貴様は賭けをして逃げられると思ってるのか?…記憶がない間は一応お預けできただろ?せめて1週間くらいは…」
そう。そこは大きく評価していい点だと思う。
なにせ四六時中どこにいても襲い掛かってくる駄犬が、自発的にお預けを守り抜いたのだ。
…こいつの脳内でどう処理されているかはさておいて、かなりの高確率で何とかできる見通しはたった。
それだけでも大きな進歩といえるだろう。
「は、はぁい!それ!それにします!一杯縛ってください…!我慢したあとはぁ…うふふふふふふ…!」
…禁欲明けのお預けもプレイの一環とか何とか言いくるめて逃げ切ってやる…!
「いいか?なんでもってのは一つじゃないからな?…覚悟しとけよ…!」
「はぁい!た、楽しみ…!」
股間を晒しながらうっとりと目を細める駄犬を睨みつけ、いつか完全勝利することを胸に誓った。
…麦茶の入ったコップがカランと硬質な音を立てるのを聞きながら。


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変態さん。
一応おしまいのような続くのような…。
春のヤツもそろそろけりつけねば。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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