失われた記憶15(変態さん)


一度ちょっかいをかけたのが不味かったんだと今なら分かる。
ヤツは本当なら今すぐにでも俺をどうこうしたかったはずだ。
だがそこに別の要素が入り込んだ。
…記憶がない俺は、ヤツへの警戒心だけは異常に高かった。
もしかすると危険なイキモノだという本能的な恐怖の記憶だけは残っていたのかもしれない。
まあとにかく、数々のちょっかいに素直に反応し、容赦なくしかもたっぷり踏んでくれる俺というものに、駄犬は味を占めたんだろう。
手を変え品を変え、俺の平和な生活を脅かすと同時に、今では諦めて一々文句を言うこともなくなった仮装もどきにも十分蔑んだ視線をくれてやっていたからな…。
脱ぐなと命じたのが良かったのか悪かったのか…。
駄犬が俺に着せたがっていた珍妙な女性用らしき衣装や、訳の分からん服が多かったが、暗部服にまで手を出した。
一応機密の塊…ってそういや駄犬もアレで一応ビンゴブックにのってたはずだが、そんなやつのケツの穴からいつでもどこでも無駄に元気な物体の形まで俺は…。
いやだめだ!考えたら負けだ!そこは…まあその、忍術には関係ないしな!
そういや浴衣なんてのもあったが…あれはなんのつもりだったんだろうな…。珍しく普通の格好だったが。
子どもに変化してきたときも一瞬騙されそうになったほどかわいらしかったが、よっぽど切羽詰ってたのか演技すらせずに俺の尻揉みしだいてきたからな…。
まあしがみついてきたからって、子ども相手でも油断したらダメだよな。家の中にいるんだからどう考えてもあの駄犬に違いないと判断するべきだった。
俺の家に入り込むし…まあ俺の家って言うか駄犬の家でもあるんだが、とにかく片っ端から俺の平穏を乱しまくってくれたのは、装丁していたとはいえ辛いの一言ではすまないほどだ。
流石変態だ。手のつけようがない。
駄犬的には新婚生活とやらをもう一度楽しんでるつもりだったんだろうな…。
俺にとっては変質者に執拗に付きまとわれ、全力でその応戦に負われていただけだったんだとしても。
とにかくそれはもう片っ端から変態行為にいそしむ駄犬のおかげで、記憶のない俺は相当疲労していた。
違和感はたっぷりあったし、駄犬は消した記憶のつじつまを合わせることよりも、駄犬の求める変態生活の実行を優先した。
そのおかげで解術が想像していたよりも穏便に済んだんだから、結果的には良かったと思う。
切羽詰った下半身のせいか、日に日に変態行為の程度は悪化していったが、それでも一応最後の一線だけは守られた。
ケツだの前だのに触られるくらいですんだからな。
なんだかんだと俺が具合が悪くなったってだけで解術したんだからまだマシだと思うことにした。
俺の想定では解術と同時に突っ込まれるという最悪の事態を考えていたからな…。
ケツを犠牲にして今後の平穏を得るはずが、予想以上の成果だ。
「茶はまだか」
「はぁい!今すぐー!こ、こっちから特濃絞りたてミルク直飲みでもぉ…!」
…あとはまあこの駄犬にしては長期にわたる禁欲で激しく瞳をぎらつかせた駄犬を何とかするだけだ。
ここまで無事でこれたんだから、しばらくケツを守りたいが…。
「しまえ。俺が飲みたいのは茶だ。妙なものまぜるんじゃねぇぞ?」
「そ、そんなプレイにまで…!でもぉ…!今は白い方をたっぷり飲んで欲しいって言うか、注ぎ込みたいっていうか、もう全身俺のでどろっどろにしたい…!」
これは、ムリなんじゃないだろうか。
諦めたら負けだ。…だが…いやでもだな!
どっちにしろ暴走するのは分かってるんだが、被害を少なくするには…むしろ今この身を犠牲にすべきなのか…!?
「いいから。茶だ」
「はぁい!」
すぐさまどこからか出された茶はいつも通りすこぶる美味い。
そして息を荒げながら俺を見つめる駄犬のやる気がびんびんに伝わってくる。
今は、さわやかな朝のはずなのに。
「あ、ぁあ…イルカせんせが俺のを…!」 相変わらずすぎる駄犬の台詞に泣き出したい気持ちを堪えながら、とりあえず殊更ゆっくり茶をすすった。
せめてもの時間稼ぎをするために。


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変態さん。
というわけで…長すぎる気がしたので過去編ぶった切って攻防戦再び。
ではではー!ご意見ご感想等御気軽にどうぞ!

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