ねつ(適当)



「暑そうですねー?」
斯く言う上忍は暑苦しいにもほどがある。
ベストはしょうがない。それが正式な装備なんだし、俺だって暑かろうが寒かろうがきちんと脚絆も乱れないように着てる。
だが顔を覆う布…これが原因でなんとも言えず暑苦しい気分になったのは今日が初めてじゃなかった。
「暑さに弱いもので」
営業スマイルを浮かべながら、普段通り手のひらを上に向けて差し出した。
さっさと報告書をだせなんていえねぇもんな。
なんかしらねぇけどこの人いつももったいぶるんだよなぁ。
基本的に受付が込まない時間帯選んでくるから、周りの迷惑になりますとも言えないのがまた面倒だ。
暇なのか、単に俺をからかいたいだけなのか。
どっちにしろこのクソ熱い季節にこうやって絡んでこられるのは鬱陶しいってのが本音だ。
冬場は冬場で寒そうなんだけどなー。白いし。
ついつい気になって温かいお茶勧めたのがまずかったのか、
冷たい麦茶があるにはあるから、もしかしてそれが目的か?…上忍にしちゃみみっちいけど、まさかなぁ?
これだけ待っても男は報告書を渡す気配がない。
むしろ何故か俺の手のひらをしげしげと眺めたかと思ったら、ぷにぷにとつついている。
…間が持たない。
せっつくよりさっさと茶の一つでも出して帰ってもらおう。
そう決意するや否や、立ち上がろうとした俺の手を、ギュウッと握り締められた。
熱い。体温は…多分普通だ。いつも周りより手が暖かいといわれる俺よりほんの少し低いだけ。
それなのに、なんでだ。こんなにも熱いと感じるのは。
「ねぇ。これも、あつい?」
「え、あ、は、はい。そうですね?」
作り笑いが引きつったのが自分でも分かる。でも、なんでだ?それにこの人は何がしたいんだ?
「あついの、弱いんだよねぇ?」
「はぁ。その。離して…」
「じゃ、俺に溶けちゃってよ?」
「は?え?その?」
「んー?もうね。大概限界なの」
なにがだ。どういうことだ。あつい。顔まで暑くなって来た。一応はおんぼろクーラーもあるってのに。
「あ、の。お願いですから離し…」
懇願は驚くほどさわやかな笑顔…それも素顔によって流されて、そして。
「んぐ!」
唇が重なった。
ちかい。あつい。それこそ溶けてしまいそうなほどに。
「この人、もういいよね?」
ぼんやりしている間に、俺さえも気付いていなかった交代の同僚にそう告げた次の瞬間には、見知らぬ部屋に立っていた。
「ふえ?え?」
「俺の方が溶けちゃったみたいだから諦めてね?」
ゆっくりと視界が傾く。
一杯に広がるのはいつもとはまるで違う笑みを浮かべた男の顔で。
そうして、それこそ溶けてしまいそうなほどの熱を全身で受け止めさせられたのだった。

言い訳が、冬で凍えそうなときにイルカ先生が温かすぎて溶けちゃったんだもん。だったってことは、そんなに長いことこの人はこんな事をしたいと考えていたってことらしい。
「好き」
つまりは、その、そういう意味で。
「うぅぅ…!」
この人に触れるとあつい理由。それは。
俺も。きっと。
「往生際が悪い所も好きだから、楽しみにしてますね?イルカせんせのこ・く・は・く」
「ぎゃー!」
それからまた体に聞くことにしますとかなんとか言われて一戦挑まれて、頭も体も疲労困憊だ。
…くっそう!なんだよもう!急にとんでもないことしやがったのに、蕩けそうに幸せそうな顔しやがって!
好きだなんて、言ってやらねぇ。
…まだ、ほんのちょっとだけは。
痛みとか割り切れない感情のままブスくれている俺に、かわいいと言いながらキスを寄越す男には、多分全部ばれてるんだとしても。


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適当。
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