銀色お化け(適当)



「飴、ちょうだい」
知らない人に声を掛けられたら、悲鳴を上げて全速力で逃げなさいと教えている。
が、しかし、それは子どもだからであって、俺のような中忍の男相手に声を掛けてくるのは任務かなんかが関の山なはずだ。
変質者にしてもマニアックすぎるだろ?なんなんだこの人。
それも普通ならお菓子を上げるからとかなんとか言ってくるのがセオリーだよな?
追いはぎにしちゃ中身がしょぼすぎる。
…それにだ、悲しいことに俺はアカデミー教師って身分だ。
つまりは持ってるんだよ。飴玉。
悪戯をした子を叱った後にとか、がんばった子にとか、両親が任務中で落ち込んでる子に、とか。
甘いものってのは分かりやすく元気をくれるからな。千の言葉を尽くすより、飴玉一個のほうが有効なことはいくらだってある。
餌で釣るのは教師としてどうかと笑わば笑え!飴玉の威力は偉大なんだ!
腹が減ってりゃ脳みそも働かないってもんだろ?
えーっと。つまり。
…相手が暗部でもそれは一緒だ。多分。きっと。
腹でも減ってなきゃこんなわけの分からん行動はとらない、よな?
「あのうお腹が減っているなら兵糧丸もありますよ?」
だがしかし、相手は暗部で、体格を見る限りではすでに成人している。
兵糧丸は、みんな結構好きなように基本配合に好みのものを混ぜ込むから、嫌がるだろうか。
ちなみに俺の場合、ラーメン味に挑戦して玉砕して、チーズ味とかチョコ味とか無難なあたりに落ち着いた。匂いを押さえるのが難しいんだけどそこは腕のみせどころ。見た目はちょっと悪いが、味はいいんだ。味は。
「へー?面白そうだけど」
「えーっとですね。召し上がりますか?」
「んーん。飴玉」
鍵爪付きの手がゆらゆらとゆれて飴玉をよこせとねだる。
ああ、そういやそんな時期なんじゃないのか。今。
化け物が闊歩して、お菓子を強請り歩くという恐ろしい行事。
仮装している子どもたちは楽しそうだったけどな。アレは、普通に考えたら恐いだろうが。
ホンモノがたまに混ざってるって言う噂もあったっけ。そういえば。
まさか生徒の変化を見抜けないってことはない。それは断言できる。この手の悪戯が好きなヤツに心当たりはしっかりあるが、こんなに完璧に変化はできないはずだ。
「あのう…飴よりも兵糧丸の方がお腹が膨れると思いますよ?」
念押ししても乗せろとばかりに突きつけられた手は動かなかったので、とりあえず懐を探った。
色とりどりの飴玉が仕舞っておいた缶からカラカラと音を立てて零れ落ちてくる。…あ、でも薄荷の飴が多いな。補充しなきゃ。子どもが嫌がるからこうやって残るんだよな。
「飴、ありがと」
暗部の好みなんてしらないから、どれを上げるか悩んでいる間に、飴玉が一個なくなっていた。さすが暗部。どうやってもっていったのか、全然見えなかった。
「え、いえ!」
何で俺が飴玉持ってるって知ってたんだろう?匂いか?匂いなのか?なら対策しなきゃだよな?たまにいきなり任務が入って、授業したあとすぐに発ったりするもんな。
うだうだと悩んでいたら、肩にぽふりと触れるモノが…。
「いーい匂い。…また来るね?」
ふわりと漂うのは甘ずっぱくも美味そうないちごの香り。わざわざ嗅がせてくれなくても知ってるんだが、気に入ってくれたんだからまあいいか。
木の葉には珍しい銀色のふわふわした髪は、硬い獣の面と違って肌触りがいい。その仕草とあいまって懐っこい猫でも相手にしてるみたいだ。
「えーっと。はぁ。そんなもんでよろしければ」
飴玉くらい大したもんじゃない。薄給の俺でもいつでも用意できる。
「ありがと」
面のお陰で表情はわからなかったが、くすくすと笑う声で機嫌がいいらしいのはわかった。
一瞬で消えちまったけどな。
「イチゴ、イチゴ。あとは…なんかたしとかないとな」
…イチゴが好きみたいだからイチゴを多めに補充して、それから色々他にも用意しておこう。
いや、また来るったってホントかどうかなんてわかんないんだけどな?
「変な暗部」
飴をやっただけなのに、妙に気分がいい。暗部のがうつったんだろうか。
晩飯と、それから今日は飴玉を買おう。
足取りは不思議なくらい軽かった。


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適当。
はろうぃんなのでちっとれんさい?
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