おいかけっこ8(適当)



「こんな時位役に立ってくれてもいいと思うんです」
曇りのない笑顔は媚を一切含まないのに、どうしてだろう。逆らおうと言う気が起こらないのは。
どこかあどけなさを残しながら強い意志を感じさせるのは、あの人とも、それから彼女…この子の母親にも良く似ている。
子どもらしい愛らしさ。
この外見だけを見れば簡単に騙される連中は山ほどいるだろう。
細い体でAランクどころかSランク任務すら単独でこなす。
ま、まだちょっと詰めが甘いところはあるけどね!
幼さすら武器に変えてみせる子だ。
己の弱さも良く分かっていて、だからこそこうして俺のところにやってきた。
かわいいかわいい自慢の弟子。
…好かれていないのは残念だけど、利用しようと考えてくれるってことは、それなりに俺のことを信用してくれるってことなんじゃないかなぁ。
ねぇ。カカシ君。
「君は、外見は父親のあの人そっくりなのに、中身は母親に似ちゃったよね」
「そう、ですか?父さんもよくそんなことを言ってますけど、俺はあまり母を知らないので…どっちかっていうと、優しそうだったってことしか。あとは父さんが犬みたいにくっついて回ってましたけど」
普通なら母親がいたことすら覚えていないだろう年齢で置いていかれてしまったから、それでもこうして断片でも記憶していること自体が珍しい。
本当のことなんて、知らなくていい。…ま、知ってていわないだけってこともありうるけど。
誰にだってお母さんは特別だもんね。
「んー?ま、サクモさん…お父さんにもそっくりだよ!まさに二人の子だよね!」
受け継がなくていい所までしっかり受け継いでいるのが難だけど。
…笑顔で人を顎で使うところがほんっとそっくり。
ただこの子はまだそれが正しくないことを知っていて、虚勢を張ってるのが見え見えだ。
一縷の望みをかけて、それからそれが突っぱねられる事がないように装っている部分もあるけどね。

「あの子は無茶ばっかりするから。壊れない頑丈なコマが欲しいんです。あなたみたいに」

そう言ってかわいらしい少女の顔で、俺に告げた。

あの日から、俺たちは共犯者になった。

守りたいのだと、そして最強の武器にしたいのだと、矛盾する言葉を陶酔しきった瞳で歌うように口にする彼女は、生きていてくれれば里最強の軍師になっただろう。
でも、逝ってしまった。
好き放題にかき回すだけかき回して、心の底から満足しながら。
「で、その子が好きなの?」
「好き…そんな生易しいもんじゃない。アレがなかったら俺は息もできない」
軽口すら流せずに、苦しげな声で言われたら、一肌脱がないわけにもいかないでしょ?
だってこの子はかわいいかわいい愛弟子にして、彼女の忘れ形見、それから…それから、俺にとって一番尊敬する人の息子だ。
「いいよ。でも、ちょーっとだけ待っててね?」
「え」
「そんな顔しないの。物事にはタイミングってものが大事なんだよ?」
そうだとも。俺はそれで失敗した。
彼女にあそこまで好き放題にさせてしまった。…おもしろいからなんて理由で。
俺は、あの人を壊させるつもりも、連れて行かせるつもりもなかったのに。
「わかりました。…おねがいします」
「うん!ま、任せといて!」
頭を素直に下げる所なんてはじめてみた。
これはもう、死ぬ気でがんばらないとだね!
彼女は笑うだろうか。思い通りにされる俺に、それから…捕まえられてしまうだろう彼女の一番大事だった人の子に。
こみ上げる笑いを押し殺し、慈愛に満ちた師の顔で、あんなに幼いのに恋に囚われてしまった子を送り出した。
悪巧みは得意だ。多分、彼女ほどじゃないけど。
「さ、がんばらないとね」
ああ、楽しみだ。
…これで、きっとケリが付く。
あの時の痛みにも喜びにも似た感情にも、募らせ続ける行き場のない思いにも。


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適当。
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