縁側の攻防(適当)



「あっちい」
獲物は縁側に転がって腹まで見えそうなほど浴衣の裾を肌蹴たまま仰向けでぐったりしている。
うわぁおいしそう。どうしてくれようか?あれだけ油断しちゃ駄目だって言ったんだからいいよねぇ?食っても。
そう思いつつ、いや待てもう少しこの絶景を楽しむのもありかもしれないなんてことも考え始めている。
確かに今日は暑いんだろう。気温なんてものでばててたらなにもできないから、体温調節から生理的欲求からなにからなにまでコントロールするのが当たり前になった身としてはいまいち理解できていないのかもしれないけど。
とりあえず暑いとイルカ先生画が隙だらけになるってのは嬉しい。
トランクスっていいよねぇ。隙間が多くて。ちょっと見えてると思うんだけど、本人は傍若無人な上忍が勝手に上がりこんでるって認識らしいから、客扱いしてやるつもりはないんだろう。
そういいながら出してくれた麦茶は冷たいし、いかにも適当に切りましたって感じのやたらデカイスイカも美味かった。
本当にいやなら無視しちゃえばいいのに、出来ないところがイルカ先生らしい。
何よりも美味しそうなのは食ったら帰れと言い残して縁側に転がりに行ったあなたなんですけどって言ったら、多分殴られただろうけど、まだもうちょっとこの時間を堪能したいからきちんと口を噤んでおいた。
麦茶をちびちび飲んでは、縁側に転がった人を観察するのは楽しかった。
うちわで扇ぐのもそこそこにごろんと転がったまま、時折吹く森から流れてくる冷風に気持ち良さそうに目を細める。
多分このだらしなさは業とだ。本人は俺を追い払うのに最適な方法だと思ったに違いない。
そういうとこ甘いんだよね。俺はあんたに欲情するって、きちんと伝えておいたのに。
「アンタ、まだ帰らないんですか?」
流石に視線が鬱陶しくなったのか、やっと声を掛けてきた。
さて、どうしてくれよう?
「帰りませんよー?」
場合に寄ってはこのまま居着いてしまおうかと思うほどに、この人は無防備だ。
ほっとけないし、こうなったら食っちゃいたいし、なによりこうやって見ている時間が楽しすぎる。
我ながら変態臭いとは思うけどね。
「昼寝したいんだよ。帰れ」
忌々しげに眉をしかめて、多分威嚇してきたつもりなんだろうけど、上気した肌が、薄っすらと乾いた唇が、面倒臭いとばかりに背を向けたその姿が、今すぐ食えといっているようにしか見えなかった。
「昼寝、いいですねぇ」
「…縁側は譲らん」
縁側は、ね。言外にここにいる許可を与えるこの人はやっぱり甘い。
食いたいなぁ。でも。…もったいない。
だってきっと明日着てもこの人はこうやって邪魔そうにしながらせっせと麦茶を出して、座布団に座らせて、それからまたこのたまらなく美味そうな姿を晒すに違いない。
「…夏って、いい季節ですね?」
「はぁ?そうですか。ああアンタ寒さに弱そうですもんね」
何故か一人で深く納得したらしいイルカ先生はスッと立ち上がって冷蔵庫のポットからグビグビと麦茶を飲み干した。
それもハズレ。おっさんくささを演出しようとしてるんだろうけど、なんか食ったり飲んだりしてるあんたはエロイだけなの。
「うーん。どうしようかなぁ?」
「だから帰れって」
「今日は昼寝にしておきます」
だって、まだもったいない。
ま、いつまで理性がもつかって言われると怪しいんだけど。
「帰れっつってんだろうが…」
はぁ…っとため息をついて縁側に戻るのを見送った。
寝入った頃に添い寝でもしてみようかなあなんて思いながら。


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適当。
実は両思い。
ご意見ご感想お気軽にどうぞ。

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