独占欲12(適当)




これの続き。 



そうだ。先生が誰よりも何よりも大事にしていた人は、かつて忍だったのだと後になって知った。
鎖をつなぐ金属製の輪に隠された傷跡は、てっきり強く引きすぎたからだと思っていたけれど、今になってみればあれはあの人の手足の自由を奪うためのものだったのかもしれない。
…俺に痕を残さずに四肢の腱を切ることを教えた先生ならきっとためらわずにそうしただろうから。
内側にやわらかい毛羽立った布…ビロウドというのだったか、たしか。それがついているのだから、あんな風に薄くとはいえまっすぐな痕が残るはずもなかった。
いつも少しだけ足を引きずるようにゆっくりとしか歩かなかった。むしろ先生がいるときなど歩いているのを見た事がない。
大事に大事にその腕に囲い込んで、あの人が欲しいという前になにもかもを与えていた。
先生は心が読めるんだと信じていたくらいだ。
…好物もなにもかもを、好きだからこそ知っているのだと豪語した先生に、それはひて押されたけれど。
何かを諦めたように笑う人は、俺にも優しくて…あの頃はわからなかったけど、嫉妬深い先生が、イルカはかわいい部下だけど、あんまりかまったら壊したくなるなんて言ってもやわらかい笑顔で諌めていた。

あの人は、先生に一度だって好きだといわなかった。

仲睦まじく過ごしているようでいて、決して一度も。少なくとも俺のいる前で口にしたことはない。
…襲って浚って上忍にとって最大の武器である体を、手足を使い物にならなくして、あのな部屋に閉じ込めたのは先生だから。
それに先生も言葉を強請らなかった。愛していると囁き続け閉じ込めることだけで満足しているように見えた。
ただあの人の悲しげ瞳には、それでも愛情が見えて、一度だって憎んでいるなんて感じたことはなかったんだ。
あの人の意地。矜持を、俺は知らなかった。少しも。
上忍として損なわれたのは体だけで、強靭な精神は、きっと最後まで戦うことを選んだに違いない。
今になって思えばおかしなことだらけなのに、両親を失って何もかもが不安定な世界にいた俺は、それが至上の愛だと信じていた。二人はあんなにも…すれちがっていたのに。
どうしてあの部屋に入ることを許されたのか、俺は知らない。
あの部屋を知る前。上忍師として関わり始めてから少し立った頃だったろうか。
先生がいつからか俺と先生は似ていると言い出したのは覚えている。
強く優しく里を守る先生を、俺は尊敬していたから嬉しくて、そんな風に言ってもらえるのが誇らしくて、だからこそ先生の言葉を簡単に信じてしまった。
皆は家にかあちゃんととうちゃんがいるから、俺だけ一人取り残されてしまうのはよくあることだった。
だから一人で帰るのも当然いつものことだったのに、その日はどうしてもそれが嫌で寂しくて、膝を抱えて川原に座り込んでいた。ここから少し歩けば俺の家で、何もかもなくしてしまったけれど、支給された布団やちょっとした家財道具が俺を待っている。
でもどうしても動きたくなくて、ここにいれば誰かが俺を迎えに来てくれるかもしれないなんて、夢みたいなことを思っていた。
それがどうしようもなく寂しかった自分の逃避だと理解していながら、それでも俺はどうしても立ち上がる事が出来なかった。
「イルカ」
「せんせい?」
肩をつかまれたのは覚えている。その手の暖かさに、どうやら冷え切っていたことにはじめて気づいたくらい、俺はながいことぼんやりしていた。
「…さみしいか?」
それを認めるのは嫌だった。だって失ったことを認めるのと同じじゃないか。
それなら…いっそこのまま一人で朝まで座り込んでいたかった。
「平気だ!」
強がりなのは先生が上忍じゃなくたってきっとばればれだ。それが分かっても意地を張るのが俺の精一杯だった。
いつも誰かが言うみたいにかわいそうにで終わるんだと思っていた。下手に慰められる位なら放っておいてほしかった。
「イルカ。大事な人を守りたいだろう?二度と失いたくないだろう?…なら、大事にしまっておかないと」
その囁きは俺の胸にすとんと落ちて、頷いた俺の手を引いて、先生は。
「おいで。イルカ」
…初めてあの人に合わせてくれたんだ。
青白い肌をみて、最初は病気なんだと思った。うつむいていた顔は先生が名を呼ぶとゆっくりと持ち上がり、どこかうつろな表情は、俺を捉えたとたん急変した。
「なんて、ことを」
「どうして?だってなにかあったら困るだろう。この子なら大丈夫。…なぁ。イルカ」
「えと、はじめまして」
「…はじめまして」
それが、あの人に出会った最初の日。あの部屋を知ることになった…俺の中に深い闇が潜んでいることを知った最初の日だった。

*********************************************************************************
適当。
ご意見ご感想お気軽にどうぞー

PC用眼鏡【管理人も使ってますがマジで疲れません】 解約手数料0円【あしたでんき】 Yahoo 楽天 NTT-X Store

無料ホームページ 無料のクレジットカード 海外格安航空券 ふるさと納税 海外旅行保険が無料! 海外ホテル