独占欲(適当)


「俺は、独占欲が強いんです。だからあなたの気持ちは受け取れません」
それってちょっと告白の返事にしては分かり辛すぎると思うんだけど。
独占欲って。
ま、確かに閉じ込めちゃいたいと思うくらいには強いけど、俺のことを言ってるんじゃなさそうだ。
それがどうして受け取れないなんて話になるんだかさっぱりわからない。
「意味がわかんないんだけど」
多少憮然とした顔を作ったのはどっちかっていうとわざとだ。
この人が上官からの告白だからと素直に頷くとも思えなかったし、かといってあっさりフってくるとも思っていなかった。
誰かの真剣な思いをないがしろにすることなんて、この人に出来るわけがないから。
だから告白は俺を意識してもらうためだったといってもいい。
…それに正直に言えば脈がない訳じゃないという確信があった。
誰にも笑顔であけっぴろげなようでいて、この人は中々警戒心が強い。
あの災厄の日から一人で生きてきたんだから当然といえば当然か。
頼るものも、守るべきものもない。それがどれだけ精神を歪ませるか知っている。だからって里を守ったともいえる赤ん坊に暴力を振るおうなんて理解できないけどね。
でもこの人は…大らかに見守り続けた里長や、世話好きの連中が周りにいたせいか、随分とまっすぐに育った。
元々、それだけ愛されて育った子どもだったのかもしれない。
だからなのか寂しがりやだよね。この人。
そのくせ甘えベタで、酒でぐだぐだになったときに一度だけ置いていくなと泣かれたことがあった位だ。
ま、それであっさり落とされた俺もどうかと思うけど。
寂しそうに縋りついて、いかないよって言っただけで泣きそうな顔で笑った。
…胸がきゅんきゅんしちゃうし、下半身もしっかり反応して、そうしたらもう、間違いようがないじゃない?
元々好意はあったと思う。自覚はしていなかったが、よく考えれば興味のない相手と態々飯を食おうとしたりしない。
それを時間を作っては誘ってたんだから、俺は、自分で思っている以上に鈍かったようだ。
潰しちゃったのはいい酒が手に入ったのと、喜んで飲んでくれるのが嬉しくて飲ませすぎただけだけど、すっごくかわいかったんだよねぇ?
くっついて寝るだけで我慢するのに、どれだけ擦り切れそうな理性を総動員したことか。
いくらでも男も女も寄ってくる立場にはいる。
…でも一人もこの人みたいに不器用で、他人のことばっかり考えて、耐えるイキモノなんていなかった。
四代目はそういえばちょっと似てるけど、あの人は強かったし、上忍らしく欲しいものに手を伸ばすことをためらったりしなかったもんね。
でも、この人は酔わせて潰してみるまで、一言もそんなことは言わなかった。
正気に返ったらなんでもないみたいな顔して誤魔化そうとしたし。ま、演技が下手すぎてばればれだったけど。
おかげで、この人が俺を欲しがっていると確信した。
普段大雑把なくせに、こういう所が繊細っておもしろいよねぇ?
そんな人が俺の告白を受けてすぐに頷く訳がないのは予想していた。それにしたってこれはないよねぇ?煙にまくにしてももうちょっとやりようがある。
堅物で同性の恋人なんて考えもしないだろうこの人を、どうやって落とそうか手薬煉引いてたんだから、こんなチャンス逃せるはずがない。
「自分の大事なモノになってしまうと、手放すことができないんです。迷惑をおかけしてしまうので」
しょんぼりした顔もかわいい。…もう大事なものにしてくれてるくせに。
大体、その言い方だと、告白自体は嫌じゃないってバレバレなんだけど。
「気が合いますね。俺もです」
むしろこの人みたいにためらわないし、周りにもう手も回してあるし、タチの悪さでいったら俺の方がよっぽどだ。諦める気なんて欠片もないしね。
「そ、の!だからあの!俺は恋人を持つとかそういうのはですね!」
「俺の気持ち、なかったことにしろっていうんですか…?」
こんな手だって使う。
頬を伝う涙はもちろんニセモノだ。今は別に泣くほど悲しくなんてない。だって最初から逃がすつもりがないんだもの。
「え!そんな!ただ、俺はあなたが思っているような人間じゃありませんし、そ、そういえばほら、俺男ですよ!」
「ああ、知ってます。この間一緒に寝たじゃないですか。あんなにくっついて寝てて性別間違えると思います?」
「おもいま、せん…」
うーん。いい具合に混乱してるから、あと一押しかな。
「好きです。…イルカせんせが俺を好きじゃなくても諦められないから、ねぇ。せめて一緒にいてくれませんか?」
「う…!」
「好きなんです。あなたが」
これは嘘偽りなく本気だ。俺がほしいのはこの人だけ。
今まで決まった相手を作らなかったのに、この人だけは我慢できなかったんだから、運命でいいでしょ?
「あ、…」
怯えた顔もかわいい。そんなに怯えるなんて、どんな独占欲を見せてくれるのか今から楽しみかも。
「だめ、ですか」
落ちてきて。
「…いっしょにいるだけ、なら…」
「ん。ありがと。…うれしい…!」
言質はとった。それに何もしないなんていってないもんねー?
外堀は殆ど埋めてあるけど、これからも少しずつ囲い込んで逃げられないようにしないと。この人は思い切りがよすぎるくらいいいから、油断できない。
まずは抱きしめて腕の中に閉じ込めておいた。
おずおずと背に周った手は、何かに耐えるようにベストを握り締めている。
我慢比べは得意じゃないから、そんな風に悩めないくらい早く俺だけでいっぱいになってね?
「カカシさん」
泣いているみたいな声に、隠しきれていない安堵と諦めが交じっていることにほくそ笑んだ。

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適当。
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