武将の人―温泉編7(適当)


イベント会場で読みたいとおっしゃってくださった方がいらしたのでこそっと連載予定。
前のお話はこれ⇒武将の人-温泉編6の続き。



計画は順調に進んでいる。…ちょっと怖くなるくらいに。しかも、なんかおもしろいことになってきているんだけど。
「う、ぅう…!」
うみのさんの顔色は気温も湿度も高いところだっていうのに、さっきから紙のように白い。
そりゃ呻きたくもなるだろう。比較的大人しくしているとはいえ、自分を狙い続けていた男に、しかも裸で相対しているんだもん。それでも逃げ出したりしない辺り、流石うみのさんだと思う。
ピンっと張り詰めた空気の中、周りのご近所の方と思しき老人たちも、固唾を呑んで見守っている。
えーっと一般人もいるけど、あの人もあっちの人も忍だよね?ま、ここは木の葉の里だし当たり前か。
そりゃこんな風にピリピリした空気漂わせられたら身構えるのもおかしくはない。冷静に気配消しつつ、うみのさんと父さんの様子を見守っている。ちょっかいを掛けないのは懸命だ。うみのさんはともかく、父さんは…邪魔だと思ったら、きっと躊躇いなく排除するだろう。流石に里で同胞の血なんてみたくないもんね。
「どう?父ちゃん?あとサクモさんはさ、そんな近くに顔寄せたら石鹸が目に入っちゃうよ?こうやって…ねぇねぇ父ちゃん!痛くない?」
「もちろんだ!イルカも後で洗ってやるからな!で、でだ。ケダモノも俺ではなく貴様の息子を…!」
「うん!カカシに洗ってもらうから大丈夫!ねー?」
「うん!」
殆ど脊髄反射みたいに返事をしたら、強張りつつもそれでも息子であるイルカには笑顔だったのに、一瞬でそれが引きつり、固まった。
父さんの方といえば今は声を掛けても気付いてもらえるかどうか…。目の前のうみのさんに夢中で、凄く幸せそうだ。タオル越しとはいえ、触りたくて仕方がなかったみたいだもんね…。そりゃそうだよね。今なら好きなだけ素肌に触れるんだから。さっきもどさくさにまぎれて泡だらけの手で背中なでてたし。
…イルカは父さんの目的とかそういうのはさっぱりわかってないから、完全に親切でやってる。そしてそういう風に育てたうみのさんとしては、息子を無碍にできない。コレは予想はしていたけど、想像以上に上手くいっている。
普段逃げ惑う獲物が、苦悩の表情を押し隠して僅かな怯えさえ漂わせながら、いくらでも触れられるところにいたら…理性なんてあってないようなものだろう。特に父さんみたいな人にとっては。
意地っ張りでもあるから、悲鳴も上げずにじっと耐えている。鬼の形相で睨みつけてたけど、父さんにとってはそんなの嬉しいだけだろう。実際少しも動揺せずに幸せそうにうみのさんを洗っている。…っていうか、きわどい所をなぞるように…。流石にちょっとイルカに害がありそうだから、さりげなく隠すことも忘れない。
イルカの母であるあのくノ一が何を考えてこうしてうみのさんを危険に晒すのかはわからない。ある意味生殺しの状態にある父さんを哀れんででもいるのなら、まだ付け入る隙があるのに。
アレは違う。もっと冷徹で、それから…どちらかというと父さんに近いイキモノなんじゃないだろうか。
…父さんが普通の父親なんてものに絶対になれないことを、きっとあのしたたかなくノ一は知っている。
そのくせこうやって夫を狙う男にとって有利すぎる怪しい提案にも表情一つ買えずに笑顔で受け入れた。
目的が読みきれないのが不安要素でもあるけど、温泉計画に乗った時点でいくらでもどうとでもできる。何せ父さんは夢中になってこうやってうみのさんを付けねらうだろうし、そうすればイルカと接する時間が増えて俺にとってはメリットしかない。
「サクモさん上手にできてるから、今度は俺が洗うの見せてあげる!カカシー!洗いっこしようぜ!」
「うん!」
抱きついてきた瞬間、床のタイルが割れるんじゃないかってくらいチャクラが乱れたけど、父さんもイルカも気にしなかったみたいだ。
「うみのさーん!うちで暴れちゃだめだよー!」
「う、うむ。分かってる!…悪かった」
「いいってことよ!」
…すごい。さっき入り口にいた老人だ。一瞬も気配が捉えられなかった。こういう所だと必要な能力なんだろうか。
父さんは父さんで、ほんの少しだけ表情を変えたけど、今はまたうみのさんをみつめている。温泉に行ってもこんな感じなんだろうから、ちょっと色々考えとかないとね。
大人と一緒じゃないと駄目とか色々言われちゃいそうだもん。でも父さんじゃそういうのは無理だろう。多分俺のことに目もくれずにうみのさんのことだけ追いかけてしまいそうだ。
ま、父さんに髪を洗ってもらえたのは楽しかったから、それだけでもいいんだけど。
「イルカ…そ、そこの小僧をこのケダモノに洗わせるから、イルカは父ちゃんがきっちり…!」
「皆で流しっこするのもいいよね!温泉いったら絶対やろうね!」
「流しっこ!?そそそそそそれは!」
「…匂いが、強くなった」
「ぎゃあ!抱きつくな!クソ!ええい!寄るな!いいから貴様も小僧を…!」
「父ちゃんもこれから髪洗わなきゃいけないから、サクモさんと交換こで洗うとして…んーっと。カカシは一緒にお風呂入ろうね?」
「うん!」
イルカの優しさと、上手く行きすぎているこの状況にほくそ笑んだ。
少しばかりの不安と、大きな期待を胸に。

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適当。
父ちゃんの涙ぐましい努力は銀髪小僧に利用されまくるとかなんとか。
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