武将の人―温泉編2(適当)


イベント会場で読みたいとおっしゃってくださった方がいらしたのでこそっと連載予定。
前のお話はこれ⇒武将の人-温泉編1の続き。



今日もイルカは元気いっぱいですっごくかわいい。
「温泉!すっごく楽しみだ!あのさ、カカシは温泉行ったことある?」
キラキラした目で見つめられると、それだけで胸がざわめく。実は俺の方がずーっと楽しみにしてると思う。…なんてボロがでちゃいそうなことは言わないけど。
「うん。任務でなら何度か」
潜入には子どもがいると何かと便利だ。疑われ難いし、俺は自分で言うのもなんだけど割りと綺麗な見た目をしてるから、人目を引きやすい。弱ったフリをして囮になったり、派手に子どもっぽく振舞って周りの視線をひきつけて陽動したり、この年齢だからこそ色々使い道がある。
任務の中では一番面倒臭い類のばっかりだったけど。なにせ温泉に来るターゲットなんて、殆どが変態野郎なんだもん。
こそこそ後ろ暗い欲求を満たすために、温泉を隠れ蓑にーってパターンか、偶然を装って後ろ暗い取引を温泉で女侍らせながらーとかね。鬱陶しいことこの上ない。全員切り捨てて来いって言われる方がまだ楽だ。
それでも俺くらいの年で腕の立つ子どもは少なくて、変化なんかの小細工なしで使える俺はその手の任務となると引っ張り出される事が多かった。それにそういう任務だと父さんとツーマンセルにしてもらえることもあるから、そこだけは嬉しかったかなぁ。
おかげで温泉なら何度か行った事があるんだけど、今回は格別だ。
だってイルカと温泉に入れるんだもん!しかも完全プライベートだから、夜中に女連れで温泉に浸かってる変態に毒盛ったりしなくてもいいし、わざとらしく浴衣はだけたりしなくてもいいし、はしゃいで転んだ振りして敵にマーキングしとくとかそういう面倒な小細工は一切必要ない。…ちょっとだけうみのさん対策は必要かもしれないけど。むしろ父さん対策の方が重要かな?
…正直言って、こんなに上手く行くとは思わなかった。
イルカが温泉旅行を欲しがってたのを聞いて、そういえばそろそろ無臭洗剤とか切れそうだったなって思ったから一度くじ引きを引ける分だけ買い物をした。それも実は、偶々くじ引きに当たったフリをして、誤魔化すためのアリバイ作りのつもりだった。
だってお金は年末の護衛任務でたっぷりあったし、そもそも俺の給料の使い道って忍具とかだけだから資金的に問題はなかった。それに加えてイルカのお母さんが三代目と何か相談したみたいで、俺と父さんの休みが一緒になる事が増えていた。うみのさんも父さんと一緒に大きな任務から帰ってきたばっかりで、多分なにかあったみたいで弱ってはいたけどお休みが取れる状況にあった。
これだけ条件が揃ってたら、いけるって思うでしょ?とーぜん。
障害が多いからって諦めるつもりはないけど、チャンスなんていつもあるもんじゃないんだから、折角ならいっぱいイルカと過ごしたい。
だから買い物をして福引をしたって事実だけがあれば、後はどうとでも誤魔化せるだろうと思って、そしてそれを実行した。うみのさんはいい人だし、俺のことをどこまでも子どもだとしか思っていないもんね。
洗剤二つは重そうに見えたみたいで、お店の人がちょこっとだけ手伝ってくれた。福引を引くときもわざわざ踏み台まで用意してくれて、普通の生活ってこんな感じなのかななんて思いながらガラガラと音を立てる朱色の箱を無造作に一回回して…。
まさか当たるとは思わなかったよね。流石に。うみのさんが凄い勢いでくじ引きしまくってたって父さんから聞いてたし、もしかしたらそれで全体量が減って、当選率が上がってたってことかもしれないけど。
やっと手に入れた機会を無駄にするわけにはいかない。だから父さんに手伝ってもらうことにした。
俺が持っていってもなんだかんだといいながら、一緒に行ってくれるだろう。最近普通に話してるつもりなんだけど、哀れみに満ちた視線を寄越されることもあるし、あとは無駄になるって分かってるんだろうに、普通の父親の心得を父さんに語ろうとして襲われてたりするし。
いい人なんだよね。うみのさん。いっそいい人過ぎるくらいに。
温泉に行くという目的なら俺が一緒に行って貰えないかと懇願するだけで片はつく。…でもそうなると父さんは置いてけぼりを食らう可能性が高い。
そりゃそうだよね。自分の貞操を虎視眈々と狙っている、しかも理性とか常識とかがあんまりない相手なんて、避けたくなるのが当たり前だ。それでも色々と面倒をみてくれていることを考えると、うみのさんはとてつもなくお人よしで、そういう所はイルカにも遺伝したのかもしれない。
だから、賭けをした。父さんが持っていけば、うみのさんは多分無碍にはできない。もし万が一同行は拒んでも、譲ってくれたことに対しては、何がしかの対価を差し出そうとするのは確実だ。それも愛息子であるイルカが欲しがっていた特賞だもん。受け取らないなんてことは多分ありえないだろう。
失敗してもうみのさんが父さんに借りを作ったと考えてくれるだろうし、成功すれば、罪悪感からにしろ、父さんを一緒に連れて行ってくれるかもしれない。
部屋を分けたがったら、俺が別に部屋を押さえればいいだけだしね。そうすればイルカと二人っきりなんていう手も…! なーんて。まあそれは流石に無理だろうけどね。うみのさんは正しい交際の手順と称して、半年は手を繋ぐことも許さんとかいってるもん。いつもおやすみとおはようのちゅーしてますとかバレた日には、卒倒しかねない。
あとは…もう一人。イルカのお母さんは今の所父さんの暴走をギリギリのところで押さえ込みつつ、適度に一般的な行動を覚えさせようとしてくれていて、すっごく助かっている。やっちゃいけない理由を教えても理解できない父さんに、とにかく徹底的に正しいとされるやり方だけを仕込むのは確かに合理的だ。
あの人を味方につけることができたら、きっと話はもっと簡単で済むだろう。
「色々準備しなくっちゃね?」
「そうだな!温泉だもんな!温泉たまごと温泉まんじゅうと温泉たっぷり浸かって、あとは枕投げだろ?それから一緒に花札とトランプと…!冒険ごっこもしよう!」
温泉まんじゅうか…イルカは食べるの大好きだもんね。きちんとリサーチしておこう。枕投げっていうのも後で調べておかないと。投げてどうするのかよくわかんないし。
あとは…花札のイカサマをしないように父さんに教え込むのと、それからトランプって、賭場とかカジノでならやったことあるけど、他にもいろいろありそうだよね?
とにかくやることはたくさんありそうだ。父さん対策を含めて、今のうちにしっかり準備しないとね!
「おいしいもの、いっぱい食べようね?」
「うん!カカシもいーっぱい食べような!」
にこにこ笑いながらイルカのお母さんの作ったおやつを半分こしてくれた。もう可愛くて仕方がない。今のうちに誰の目も届かない所に仕舞い込んでしまいたいくらいだ。
…そんな父さんみたいな真似したら大変なことになるから我慢するけどね?
「イルカぁあぁあ!イルカはどこだ!無事か!手など握ってはいないだろうな!銀髪小僧!色ボケ小童!どこへ隠れた!今すぐ出て来い!」
「あ、父ちゃんだ!父ちゃんもオヤツ食べるよね?」
「そうだね。お茶も用意してあるからちょうどいいね」
相変わらずの激しさで詰め寄るうみのさんを眺めながら、父さんがちゃんと指示通りに動いてくれていることを祈っておいた。

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適当。
あいかわらず真っ黒なkks少年と、食欲旺盛天真爛漫な息子と、取り乱す父ちゃん。
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