おいかけっこ21.5(適当)



抜けるような青い空って、こういう景色のことを言うんだろう。
丘の上は不安定な情勢なんて嘘みたいに静かで、青々と茂った野草たちが好き放題に天に向かって手を伸ばしている。
なんて、美しい景色。退屈な。
手を、あの草たちのようにまぶしすぎる光に向ける。
赤く透けて脈打つもの。生きていることを示す赤い赤い…。
下忍にもなっていない子どもが、こんな行動をしているのは、誰しも微笑ましく思うはずなのにね。

「あーあ。息をするのも面倒臭い」

将来は望んでもいないのに嘱望されている。
いずれは火影になんて、寝ぼけたことまで言われる始末。
才能は確かにあるんだと思う。というか、なんでそんなに周りが難しがるのかわからないだけなんだけどね。
術を使うことも、書を読むことも、息をするのと同じくらい簡単なだけなのに。
そんなに珍しがられても困る。
こっちからすれば、何故こんな小僧がなんて言われながら、その子供への嫉妬に終始する連中や、便利な道具を見つけて喜んで、それが本当は人間の子どもだってことを忘れる連中だらけの中で、なんてこの人たちこんなに馬鹿なんだろうと思ってるのに。
里長は、あれだけ面倒な連中をまとめているってだけで、すごいなぁって思ってはいるよ?
でも、きっと楽しくない。
新しい術を知るのも、珍しい書を読むのも、ちょっと弄って変わった術を作るのも楽しい。
だからそれだけやらせてくれたっていいじゃないか。十分里の役にはたっているはずなのにね。
そう思ったから、纏わりついて術を覚えろと喚くばかりの馬鹿を、適当に言いくるめて散歩に出た。
そうやって、俺をモノとしてしかみない連中が嫌いだ。…っていうか、面倒臭い。
天才なんていうけど、天才なら何でも言われた通りにやらなきゃいけないって訳じゃないよね?賢いってやたら騒ぐんだから、そこに気付いても良さそうなんだけど。
これまで波風立てるのが面倒で、ついつい大人しく賢い良い子―な感じでやってきちゃったけどさ。見た目もキッとそれを助長している。どうやら造形としては十分整っているらしいから。
あとちょっとでアカデミーとかいう所に入れてもらえるみたいだから、少しだけそこに期待してる。
忍びこんでみた感じだと、体したことは勉強しないみたいだけど、楽しそうだったからね?
他に子供がたくさんいて、恐ろしいほど幼稚で、もっと言えばきっと…きっと簡単に扇動できる。
でも、やっぱり退屈だ。
なにもかもがつまらなくなりつつある世界を、どうやってもっと楽しくしたらいいんだろう?
教育係とやらを弄るのにももう飽きた。里を出てふらっと出かけるのも好きだけど…もっとなにか、退屈しない物が欲しい。
「ん?」
横たわるこの丘に、駆け上ってくる気配がする。
休憩しすぎって騒ぎにきたにしては、気配の元が小さい。
「ついたってば…っ痛っ!って!?きゃー!死体!」
「うーん。生きてるし、人を蹴り飛ばしちゃったときは、謝った方がいいと思うよ?」
赤毛の、瞳を潤ませた少女。同い年くらいの。
青い空に燃えるような赤が映えて、どんな景色よりもきっと。
「え!あ!っていうか!なんであんたこんなとこで寝てるんだってばね!草に埋もれて見えなかったし!危ないってばね!」
「うん。そうだね。気をつけるよ」
転げたままの少女の手をとった。
うん。これ、俺のモノにしよう。絶対に。
だって、きっと一生退屈しない。
「わ、わかればいいんだってばね!」
胸を張って腕を組んで、ふんぞり返って言う割には、蹴ってしまったところをちらちらみながら、泣きそうな顔をしている。
「ねぇ。おやつがあるんだけど一緒に食べてくれないかな?景色が綺麗だからちょっとぼんやりしちゃって。折角だし誰かと一緒に食べたいな?」
「そ、そういうことなら!食べてやってもいいってばね!」
おやつのたっぷり入ったかごに、すっかり機嫌が良くなったらしい。
…俺のお手製なんだけど、食物で釣れそうだから、もうちょっと腕を磨こうかな?
生き生きとしていて、なにがあっても折れない強さとしなやかさ。
こういう生き物は美しい。
「綺麗だね」
彼女に言った言葉だったのに、ふわっと笑って立ち上がった。
「ここは、里でいちばーん!綺麗なところなんだってばね!」
まるで自分の土地みたいだけど…。そういうところもおもしろい。
「ミナトっていうんだ」
「え?ああ、お前の名前かってばね?」
「うん。君は?」
「私は…クシナ」
「そっか!綺麗な名前だね!」
クシナ。クシナか。いい名前だ。
気に入った。なんて収穫の多い散歩だったんだろう!
「お前、変とか気持ち悪いって言われないかってばね…?」
胡散臭そうに見られるのも楽しい。何もかもが色を変えていく。
「ミナトって、変かな…?」
自分の名前に記号以上の意味を求めた事がないから、そう大した問題じゃないと思ってたんだけど、この子に呼んでもらえないのは嫌かもしれないなぁ。
「へ、変じゃない!変じゃないってばね!変なのはお前の行動!」
「そっか。じゃあ、名前呼んでくれたら嬉しいな?」
「ば、馬鹿ミナト!お菓子はごちそうさまだってばねー!」
すごい勢いで走って逃げていく彼女を見送った。
きっとまた、彼女はここに来るだろう。お菓子と、それから俺への罪悪感で。
「楽しみだなぁ」
もう一度転がって見上げた空は、今まで見たどの空よりも美しかった。

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適当。
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