比翼連理(適当)



たちならぶ慰霊碑に刻まれた名前たち。
一人、また一人と増えていって、そこに軽口もキツイ冗句も下らない片恋の苦しみも、豪快に笑ってからかって、それから真剣に相談に話を聞いてくれた男の名が増えたことに俺は多分打ちのめされていた。
「一人になっちゃった」
部下はいる。それから男が愛した女も、その腹に新しい命を宿して、俺みたいにへし折れずに生き抜こうとしている。
でも、おれは。
置いていかれてばかりで今更寂しいなんて思わないはずなのに、どうしてか全身が氷水に浸されたように冷え切っている。
…こんなに今日は暑いっていうのに。
足が、動かない。指先一つだって自由にならない。
なんだろう。戦わなきゃいけないはずだ。そのためのイキモノであり、存在だ。
失ったモノたちのためにも、俺はクナイを握らなきゃいけないはずなのに。
「さみしい」
誰ともなしに呟いたはずのその言葉に、応えがあった。
「じゃあ。俺が側にいますよ」
まるで物語に聞く天使のように微笑んで。
…そうか。この人が側にいてくれるのか。
ドクリ。
音を立てて全身にあたたかいものが流れ出した。
凝ったものを煮溶かすほどの熱さが、俺を守るように抱きくるんでくれる。
「イルカせんせい。イルカせんせいはどこにもいかないよね?」
驚くほど拙いことばにも、泣きそうに潤んだ瞳は諾と言っている。
とんだうそつきだ。だってこの人は俺なんかより子どもを守って、勝手に満足して一人で死んでしまいそうだもの。
あいしてるなんていえない。…いわない。
そう決めた、俺だけの約束をしっていた男はもういない。どこにも。
冷たい石の下にはアイツの欠片すら残ってなんかいない。刻まれて残されているのは名前だけ。
もし本当に天国なんてものがあるなら、今頃そこで俺を見て笑ってくれているかもしれないけど。
「どこにも、いきません。俺も意地なんかもう張らねぇ。アンタが、アンタがこんな風に俺を置いていくのに耐えられないと思ってたけど、そんなのもうどうでもいい」
アンタに辛い顔させるくらいなら、俺なんかいくらだって使えばいいんですよ。
血を吐くような台詞に胸が高鳴る。
手に入れたのかもしれない。
「好きです。ねぇ。ずっと好きだった」
「今は?」
泣き笑いの顔に驚きは見えない。
忍同士、長いこととんだ騙しあいをしてたってことだろうか。
相手のことなんかなんとも思ってないフリで、でも距離を開けられるほど思いは弱くなくて、触れることもできないのに離れることも出来なくて。
馬鹿みたいにお互いのことをみていたことを、アイツも知っていたんだろうか。
「ずっと。好き」
頬を伝う生暖かい水は鏡のように、俺を見つめるように立つ男からも零れ落ちていく。
「俺も、ずっと好きでした」
だからもうなんでもいいから側にいやがれ。
毒づくことばに頷いて、縋りついて、それから。
引き寄せられるように口付けを交わした。
上手く言えない言葉よりも、ずっとわかりやすいのは、俺もこの人も男だからか、それとも二人ともおかしくなってるだけなのか。
「一緒にいきて、一緒に死んで。おいていかないからおいていかないで」
「ええ。もちろん」
すがすがしいまでの即答と笑顔に、全てが塗りつぶされていく。
ねぇ。もう少しだけ、がんばってみるから。お前に会ったら笑って祝福してよ。
大切な人も連れて行くから。
届かない呟きを飲み込んで、嘘の様に青い空が広がっていた。
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適当。
なつはなんだかうしなったものをおもいだすきせつですね_Σ(:|3」 ∠)_ 。
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