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「食べ過ぎちゃダメよ？」 そう言って母ちゃんからもらったチョコレートが、普段より大きかったことは覚えている。 当時は、バレンタインなんてものに興味がなかったから、ただただでっかいチョコレートをもらえて嬉しいってのと、父ちゃんのがでっかくてずるいとかそのくらいのことしか考えていなかったっけ。 「これはね？父ちゃんだけ特別にあげるものなのよ？」 そういって笑う母ちゃんのイタズラっぽい顔と、父ちゃんの照れくさそうな顔の意味が分かるまで、随分と長い時間が必要だったわけだ。 …今思うと馬鹿すぎて泣けるが、これだけ体がでっかくなったというのに、未だに俺の手にバレンタインのチョコレートというものがやってきたことはない。 …厳密に言うと義理チョコ以外では。 それを寂しいと思ってはいたが、それはそれ。いつか何とかなる日が来る…はずだ。 それよりも、今目の前に差し出されたものの方が俺にとっては重要だった。 「これ、貰ってください」 意地汚いといわれてもチョコレートは好きだ。 どんな理由でももらえるのなら大歓迎だ。 この顔見知りの上忍が俺とは正反対に凄まじい量の本命という俺にとっては幻の存在であるチョコを貰うのを知っているだけに、こうして差し出されたものの正体に、おおよその見当はついた。 まだ随分と先の話のはずだが、バレンタインに任務が入った誰かが早めに渡していったのかもしれない。 大きなものから小さなものまで、甘いモノにさほど詳しくない俺でも知っている店の名前の包みが身ばかりが無造作に紙袋に放り込まれている。 こんなに美味そうな物を…もとい、こんなに本気で…その質がどういう方向かは置いておいて…愛を告白されているなんて羨ましい限りだ。 しかも当日でもないのに。 「あの、でもですね。これはご自分で…その、受け取らないとかした方が良かったんじゃないでしょうか？」 だってこの沢山のチョコレートは、目の前で表情の読めない顔で突っ立っている上忍のために買ったもののはずだ。 一服盛られているかもしれない可能性は、この人にそんなものが効くわけもないから低いだろうが、この人のためを思って選び抜かれた逸品たちを、チョコならなんでもいいくらいの俺が貰ってしまうのはさすがに気が引ける。 第一、確か思いを受け取らないのなら、チョコも返さなきゃいけないとか、ませた生徒が言っていたはずだ。 …羨ましいことにその生徒のほうが俺よりずっとチョコレートを貰って頂けに、ちょっと空しくなったのは秘密だ。 つまりだ。これを俺が受け取れば…それはもう、ひょっとしなくても血の海が降るんじゃないだろうか。 ちょっと怯えつつ、それからちょっといぶかしみつつ、おずおずと提案した俺に、無表情に見えた上忍の顔が変わった。 「んー？あれ？ひょっとして今日じゃないの？」 「は？」 さっぱり話が分からない。今日じゃないも何も、一体何が？ 「チョコレート、好きでしょ？…バレンタインってのに丁度いいかと思って。どれがいいんだかわからなくて色々あるけど、どれも悪くなかったよ？」 「へ？え？…うえ！？」 「じゃ、そういうことだから」 何を勘違いしてるんだか訂正する前に、上忍は俺にチョコの入った紙袋を押し付けると、一瞬で消えていた。 「ど、どうしよう！？」 俺に戸惑いと山ほどのチョコレートを残して ＊＊＊＊＊ 食べ過ぎちゃダメよ？…そう呟く母の声がいまさらながら繰り返されている。 とりあえずちゃんと理解してるかどうか分からないチョコなんて受け取れないと、紙袋のまま返却しに上忍の家に行って、上忍の家でチョコレートの意味を説明するはずが言葉巧みにチョコレートを進められて…気付けばあんあん鳴かされていた。 それ以来、山盛りのチョコレートと…それから全然別の物まで俺の腹一杯に詰め込まれてる羽目になっている。 注ぎ込まれ続けたチョコも愛情も全てが俺を変えた。 …具体的に言うと落とされた。このちょっと所でなく心配な上忍に。 「いーっぱい食べてね？イルカ先生と一緒に食べると美味しいから、つい買い過ぎちゃった」 どう言っていそいそとチョコを手渡す上忍に、すっかりめろめろになっている自分を自覚しながら、俺も上忍にチョコを差し出した。 「好きです」 そう言った途端抱きしめられて、それ以上何もいえなく…というか、まあさらにあんあん鳴かされる羽目になったけど。 こんな幸せもありかな、何て思ってる俺もいるのだった。 ********************************************************************************* 適当！ 眠すぎるので…。 ではではー！なにかご意見ご感想等ございましたら、お知らせくださいませ！ |