あの日の約束(ヤンカカモノ 連載的な何か12)


ヤンカカモノ連載的な何か。その12。
イルカてんてー視点?
いつも通りやや病んでるのでご注意ー?


うっすらと空けた瞳に飛び込んできた光に目を瞬かせた。
ここはとても温かい。…懐かしい温もりが俺を包んでくれる。

あまりの心地良さにもう一度眠ってしまいたいくらいで…一度開いた目蓋も、すぐに眠気に抗えなくなった。

もう朝だ。目を覚まさなければならない。ソレは分かっている。
それなのにどうしても…このまま眠りに落ちたいという欲求に逆らえない。

「起きたの?」

優しい声が、俺の耳をなでていった。

「ん…」

ああ、目覚めたくない。

こんな幸せなぬくもりは…きっとまた夢だから。

それなら…このまどろみの心地良さにあと少しだけでいいから浸っていたい。
切なくて苦しいほどのこの幸福に。

「お寝坊さんは治らなかったのかな?」

くすくす笑いと一緒に、するりと何かが俺の頬に触れた。
その心地良さに、甘えるようにすりよって、それから…あのときのことを思い出していた。

そうだ。昔、何度もこうやって…ちょっと困ったような、でも嬉しそうな声に起こされた。
その腕の中でずっと眠っていたくても、外に出かけてしまう人を引き止められない。
だから、少しだけその優しさに甘えて、俺を抱き寄せてくれる腕に縋りつくように頬を摺り寄せた。

ああ、でもその誰かは、誰だったんだろうか?
今俺の触れるこの人は、誰なんだろう。

幻にしてはそのぬくもりはリアルすぎて、涙が零れそうになった。

「…ま、昨日は頑張りすぎちゃったし、今日はおやすみだもんね?一緒にもうちょっと寝ようか?」

俺を甘やかす声は、遠い記憶よりずっと低くて、酷く甘い。
昨日の嵐のような情交で疲弊した身体を包み込むように。

…そうだ。俺は、昨日、誰かと、ずっと引き離されて、でもその失えない誰かが俺を迎えに…。

断片的な思考が散らばったガラス玉のようだ。簡単に目の届かないどこかへ消えていってしまう。
眠っちゃダメだ。忘れさせられてしまう。あの時だって。

「イヤ、だ…!もう二度と…!」

だるさと眠気に思うように動けない。でもこの人から引き離されるくらいなら。

「大丈夫。…もう、離さないよ?」

たった一言。その言葉を聞くだけで安堵の溜息が零れた。

「ほんと?もうおいていかない?」

信じたい。いや、信じてる。だってこの人はこんなにも穏やかに笑ってくれている。
…でも、イヤだ。怖い。また置いていかれてしまったら、もう耐えられない。

「おいていかないよ。絶対に…だから、ごめんね?」

何故謝るのか分からなかった。
欲しくて欲しくて…この人を求めたのは俺の方だったのに。

貪欲な自分。あんな風になれるなんて知らなかった。
それなのに、信じられないほど満たされている。

ずっと餓えていた。この人に。

「好き。ずーっといっしょって言った。…もう置いていかせない。今度は…」
「イルカ…?」

そうだ。もう俺はあんな風に簡単に捕まってやらない。この人の側から引き離される前にこの人を連れて逃げてやる。

そうか。だから…三代目は。

でも、もう無理だから。

心の中だけで…感謝と…それから謝罪した。

俺が欲しいのはこの人だけ。それ以外はいらない。
…たとえそれがどんなに望まれないことであったとしても。

「好きです。だから…だから自分だけ悪いなんて顔、許さない」
「イルカ…!」

その背に腕を回し、互いを閉じ込めあって、触れるだけのキスを交わした。
遠いあの日、ずっと側にいると誓った時のように。

…思い出せないことばかりなのに、奪われたというコトだけは鮮明に焼きついている。
やっと取り返したこの人を、二度と奪わせない。

「「もう絶対に」」

密やかな決意はおぼろげな記憶への寂しさよりも、ずっと強く俺の胸を焼いた。


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ヤンカカモノが続いてみたのです。
石なげちゃいやー…!まあとにかく…苦手な方はご注意を…!!!
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