秋祭(適当)


祭囃子が聞こえる。
今日は任務の無い忍も里人もこぞって集まるから、普段は静かな俺の家の回りも随分とにぎやかだ。
子どもたちの騒ぐ声と、祈りの歌が混じったそれは、この時期の風物詩とも言える。
子どもたちは華やかな祭りの光と屋台の怪しさに歓声を上げ、大人たちは静かに祈りを捧げるのだ。
まだ幼い、だが火の意思をその胸に宿らせた子どもたちに、祈りの意味を言い聞かせながら。
そう、つまり秋祭りは今年の実り収穫を感謝し、祝い、来年の豊饒を祈るもののはずだ。
だが。
「楽しみですね…!」
はしゃぎ舞い上がる男は上忍とは思えない有様だ。
この日のために仕立てた浴衣に袖を通して、まだ祭りは始まってもいないというのにくるくると回っては、俺を見て微笑んでいる。
「いいからほら!仕度前に暴れない!」
ソレでなくてもなれない格好だ。
自分の分はなんとかできても、男の分には一掃四苦八苦しているというのに、男はせっせと俺の邪魔をしてくれる。
のりが効いていたはずの浴衣は、既に見る影もない。
皺はなくても、男が握って振り回したせいでどこか型崩れして見える気さえするのだから、頭が痛い。
そんな状態なのに、俺よりも浴衣が似合っているあたり、世の中は不公平だ。
とにかく着付けを済ませてしまおうと、男の首根っこを押さえるまえに、舞い上がったままの男はとんでもないことを言った。
「そうですよね!今日は大事な浴衣プレ…いったー!」
悲鳴は上がったが、振り下ろした拳骨には後悔はしなかった。
「あ、あんたなんてこと言いやがる!」
不謹慎極まりない。
祭りの意味もしらぬ子どもたちならまだしも、豊穣を祈るでもなく、ろくでもないことばかり考えているなんて。
「だって!楽しみにしてたんですよー?…今日は、お祭りですから…ね?」
「アンタ、馬鹿ですか…」
くすくすと楽しそうに笑う男をしかりつけながら溜息をついた。
…不謹慎なのは俺もだ。
俺の方が…この男と過す時間を楽しみにしていたのだから。
そんなコトを言えば調子に乗るだろう男に、この事は秘密にしようと思う。
「ね、行きましょう?」
「…そうですね。…ある意味…」
急いで準備してやろう。
そして…この穏やかな時間を来年も過せるように祈ろう。
この男との時間は…ある意味最も俺にとって喜ばしく、何よりの実りと言えなくはないから。
「え?なんですか?」
「アンタには適わないって話ですよ」
不思議そうに聞き返す男の腕を捕らえて笑ってやったら、へにょりと男まで笑み崩れた。
こんな夜を、きっと神様も許してくれるだろう。
さっさと着付けてしまうために、俺の体を這う手をいなしながら、俺は浮き足立つ心のままに、そっと微笑んだのだった。


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てきとうー!
ねむい!
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